136 / 142
薔薇の耽血
16
しおりを挟む
鼓膜に絡みつく、低く澄んだ声とともに、鮮やかに蘇る美汪の記憶。
穏花の脳裏に深く刻まれた彼は、ただ優しく微笑み、そして……
背を向けると、遠く彼方へ消えていった。
――美汪――――……?
穏花が見下ろしたそれは、美汪の墓ではない。
美汪、そのものだった。
それは決して言葉では現せなかった美汪の想い。
自らの命と引き換えに捧げた、薔薇の耽血という名の愛の告白だった。
かつて美汪だった、紅い花弁に透明の雫が落ちていく。
頭ではなく、感覚ですべてを悟った穏花は、やがて夢中で愛しい人の亡骸を掘り起こそうと、硬くなった雪を素手で掻き分けた。
――なんで、どうして、大丈夫って言ったのに、嘘は嫌いだって言ったくせに、嘘つき、嘘つき。
「美汪、の、嘘、つき……」
たった一つの楽しみすらなく美徳だけを支えに生きてきた美汪にとって、穏花は初めての“喜び”であり“太陽”だった。
そんな穏花を救えるのが自分だけだと知った時、美汪は初めて心から吸血族に生まれてよかったと思った。
愛を覚え、今までの自身の形を失った美汪が、欲望の渦に陥落し、醜い姿を晒すのは耐え難い屈辱だった。
穏花にこれ以上、そんな己を見せたくなかった美汪にとっては、この結末は幸せと呼べなくても、最良と言えた。
強がりで、臆病で、哀れな人。
穏花の脳裏に深く刻まれた彼は、ただ優しく微笑み、そして……
背を向けると、遠く彼方へ消えていった。
――美汪――――……?
穏花が見下ろしたそれは、美汪の墓ではない。
美汪、そのものだった。
それは決して言葉では現せなかった美汪の想い。
自らの命と引き換えに捧げた、薔薇の耽血という名の愛の告白だった。
かつて美汪だった、紅い花弁に透明の雫が落ちていく。
頭ではなく、感覚ですべてを悟った穏花は、やがて夢中で愛しい人の亡骸を掘り起こそうと、硬くなった雪を素手で掻き分けた。
――なんで、どうして、大丈夫って言ったのに、嘘は嫌いだって言ったくせに、嘘つき、嘘つき。
「美汪、の、嘘、つき……」
たった一つの楽しみすらなく美徳だけを支えに生きてきた美汪にとって、穏花は初めての“喜び”であり“太陽”だった。
そんな穏花を救えるのが自分だけだと知った時、美汪は初めて心から吸血族に生まれてよかったと思った。
愛を覚え、今までの自身の形を失った美汪が、欲望の渦に陥落し、醜い姿を晒すのは耐え難い屈辱だった。
穏花にこれ以上、そんな己を見せたくなかった美汪にとっては、この結末は幸せと呼べなくても、最良と言えた。
強がりで、臆病で、哀れな人。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる