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薔薇の耽血

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 鼓膜に絡みつく、低く澄んだ声とともに、鮮やかに蘇る美汪の記憶。

 穏花の脳裏に深く刻まれた彼は、ただ優しく微笑み、そして……
 背を向けると、遠く彼方へ消えていった。
 

 ――美汪――――……?


 穏花が見下ろしたそれは、美汪の墓ではない。
 美汪、そのものだった。

 それは決して言葉では現せなかった美汪の想い。
 自らの命と引き換えに捧げた、薔薇の耽血という名の愛の告白だった。

 かつて美汪だった、紅い花弁に透明の雫が落ちていく。

 頭ではなく、感覚ですべてを悟った穏花は、やがて夢中で愛しい人の亡骸を掘り起こそうと、硬くなった雪を素手で掻き分けた。


 ――なんで、どうして、大丈夫って言ったのに、嘘は嫌いだって言ったくせに、嘘つき、嘘つき。

「美汪、の、嘘、つき……」

 
 たった一つの楽しみすらなく美徳だけを支えに生きてきた美汪にとって、穏花は初めての“喜び”であり“太陽”だった。
 そんな穏花を救えるのが自分だけだと知った時、美汪は初めて心から吸血族に生まれてよかったと思った。
 愛を覚え、今までの自身の形を失った美汪が、欲望の渦に陥落し、醜い姿を晒すのは耐え難い屈辱だった。
 穏花にこれ以上、そんな己を見せたくなかった美汪にとっては、この結末は幸せと呼べなくても、最良と言えた。

 強がりで、臆病で、哀れな人。
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