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吸血族の城

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「おや、どうされましたか?」
「……コーエンさんがそう言ってくださるのは嬉しいです。でも……私は美汪にあまり、好かれていないと思うので……嫌な相手が側にいるのは、一番のストレスになると思うんです」

 それを聞いたコーエンは、何も口にしていないのにまた咽せ返りそうになった。

「な、なぜそう思われるのです?」
「美汪は、その……言っていいかわからないんですが……血を吸う時、ちょっと、暴力的、というか、なんというか、はい……たぶん私が知らないうちにイライラさせてるんだと思います。……あっ、でも優しいなって感じることもたくさんあるんですけどね!?」

 コーエンは、ははん、なるほど、と人差し指と親指で顎を挟みながら小さく頷いた。
 彼にとって穏花の話は、意外でもなんでもなかったのだ。

「お嬢様、一つよいことをお教えいたしましょう」
「いいこと、ですか……?」
「『生涯、あなたの血しかいらない』」

 コーエンは少ししゃがれた低い声で、明確に穏花に言って見せた。

「吸血族のプロポーズですよ」

 その補足で、先刻の台詞が劇的に色を持つ。

「そ、そうなんですか……! なんか、情熱的で素敵ですね……!」
「そう言っていただけて……おや、そういえば」

 ここでコーエンは、腕を組み、頭を捻らせるという大袈裟なジェスチャーをした。

「一ヶ月ほど前から、ぼっちゃまは夜中出かけられることがなくなりました。なぜでしょうねぇ? ……おお、よく考えてみれば、あなた様の血を吸うようになられた時期と重なりますよねぇ? どうやらぼっちゃまは、穏花お嬢様に手をつけられてから他の女性の血は一滴いってきたりとも体内に入れられていないようです。……これがどういう意味か、おわかりでしょうか?」
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