薔薇の耽血（バラのたんけつ）

吸血族の城

4

「うーん、美汪は怖いけど、怖くないような気がする」
「君の言語能力の乏しさには感服するよ」
「どういう意味？」
「何言ってるかわからないってことだよ」
「ええ！？　あ、こ、怖くないよ！　美汪は悪い嘘はつかないって思うし……あ、じゃあ信じてるってことになるかな？」
「……本人に聞いてどうするの」

　穏花がこんなにも懐くのは美汪にとって予想外だった。
　それについて美汪が喜んでいるのか疎んでいるのかは、その平静な表情からは窺い取れない。

「ねえ、美汪、どこに向かってるの？　ここって森林しかないんじゃ――」

　穏花が行き先を尋ねようとした時だった。

　視界のすべてが紅い落ち葉一色に覆われたかと思うと、次に瞼を閉じ、開いた瞬間には、先ほどまでなかった空間が広がっていた。
　
　生い茂る紅葉の森林を裾の飾りのようにして、堂々たる姿で空に向かいそびえ立つ、やや灰色味がかった白の巨大な古城。
　鉛筆の先を尖らせたような群青色の屋根が大小歪に並んでおり、入り口と思わしき場所は橙に近い煉瓦色をしていた。
　歴史を匂わせる重厚な造りは、見る者を圧倒する美しさと妖しさを持ち合わせていた。

「形くらいは見覚えがあるんじゃない」

　穏花は口に手を当てしばし言葉を失っていたが、美汪の声にて自我を取り戻した。

「……う、うん、なんか、見たことが、あるような……シンデレラのお城、みたいだよね……？」
「ノイシュヴァンシュタイン城……これをモデルにしたのがその童話の世界のお城だよ。僕たちの起源はドイツだと言われているからね。もちろん本物じゃない、僕が模造し具現化したものだ」
　
　穏花はもうちんぷんかんぷんになり、頭をぐらぐらと揺らしていた。