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秘密

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「黒川、君」

 穏花が開いた扉が、音もなく閉まる。
 穏花の声に美汪は椅子を回転させ、振り向いた。
 長い腕と足を組み、部屋に入って来た穏花を見据える。その目はやはり鋭かった。
 しかし、それは彼の生まれ持ったものかもしれない。
 穏花がそう思えるほどに、昨日のような圧力は感じさせなかった。

「その、くんって言うの、やめてくれない? 鳥肌が立ちそうだ」
「え!? あ、あ、そう、だよね」

 美汪の台詞に、きっと馴れ馴れしかったから気を悪くさせたのだと穏花は盛大な勘違いをする。

「じゃあ、黒川様でいい……?」
「……それ、冗談で言ってるなら怒るよ」
「そ、そうだよねぇ!? え、えーと、黒川大臣、黒川大統領、黒川皇帝、黒川左官」
「…………」

 美汪は思った。
 ダメだ、こいつは、本気で言っている、と。

「君自体がいらないって言ってるんだよ。ちなみに左官は敬称じゃなくて職業だからね」

 神経質な美汪は間違いを訂正しなければ気が済まなかった。

「美汪でいい」

 疑問符を浮かべながら見てくる穏花に、美汪はため息混じりにそう述べた。

「……み、お、くん……?」
「今度それをつけたら」
「あっ! わ、わかった! やっとわかりました! じゃあ……」

 焦った穏花は両手を前に出し首を横に振ると、少し躊躇いながら美汪の言う通りにした。

「み……美汪……?」

 下の名を呼び捨てにすると、なぜか急に距離が縮まった気がして、穏花は不思議な気分だった。
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