薔薇の耽血（バラのたんけつ）

秘密

5

　翌朝になっても、穏花が花を吐くことはなかった。
　美汪に吸血されてからということを考えれば、あの例の記事に書かれていた内容が信憑性を増した。

　穏花はもう一度その記事を読み直してみたいと思い、スマートフォンで検索をかけたが、なぜかいくら探してもそのサイトは見つからなかった。どうやら削除されてしまったようである。
　そうこうしているうちに登校時刻になり、穏花は足早に家を出た。

　昨日あんなことがあった後で眠れるはずもなく、穏花は一睡もできなかった重たい目を擦り、気だるい身体を引きずるようにして学校に向かった。
　行けば、間違いなく美汪に会うだろう。
　あの、鋭く冷たい刃のような目と、貫かれた痛みが頭から離れず、怖くて怖くて仕方がなかった。どのような顔をして会えばよいのかもわからなかった。

　しかし、悩んだところで答えが出るはずもなく、穏花はため息混じりに教室のドアを開けた。

「おおっ、と！」

　すると、ちょうど教室を出るところだった圭太に出会った。ぶつかりそうになった相手が穏花だということに気づいた圭太は、人懐こそうな笑顔を向けた。

「はよ、穏花！」
「お、おはよう、圭太」

　予期せぬ至近距離で圭太を見た穏花は、朝からいいことがあったと少しだけ気分が明るくなったのだが……。

「……あれ？　どうしたんだ、それ？」

　不思議そうに問いかける圭太は、穏花に提示するように自分の首筋を人差し指でとんとんと叩いていた。