蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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 ――約、六百年前――

 時は乱世、戦国時代の突入を前にした室町時代であった。
 そんな時代の仙界に、聞かん坊の神が一人――。

「……何度言えばわかるのだ! 男ばかりから寿命を調達しては国の均整が崩れると言うておろう!」
「知らぬ存ぜぬ聞く耳持たぬ」
「狐雲! お前という奴はあぁ!!」

 当時の中流神であった犬神いぬがみに叱責されていたのは、紛れもなく狐雲である。

 まだ下流神であった狐雲は、この時四百歳。
 腰の長さの琥珀色の髪は今より輝きが弱く、顔にもまだ童らしさが残っており、豊かな尻尾はまだ三本しか生えていない。
 立ち振る舞いや言葉遣いには気品があるものの、その性質は蛇珀にも負けず劣らず奔放で型破りであった。

「狐雲、今日も願い聞きに参るのですか?」

 犬神の忠告を無視し、人間界に降りようとした狐雲に声をかけたのは当時七百歳の学法であった。
 学法はこの寸前中流神になったため、今と変わらぬ髪の長さをしていたが、外見にはやや若さが見られ、うっすらと目が開いていた。瞼の隙間から覗く瞳は黒曜石に似た透明度の高い黒色をしていた。

「関係ないであろう。話しかけるな」
「貴殿はなんといいましょう、どうも危なかしく、放っておけませんでね」
「いらぬ世話だ」
「ほほ、これは失礼」

 学法をつっぱね、狐雲は人間界へと姿を消した。
 当時は上流神自体が存在しなかったため、誰に許可を取らずとも自由に下界へ出入りしていた。
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