155 / 158
エピローグ
5
しおりを挟む
店内を見渡すおばさんが「この店イケメンばっかだべなあ」とつぶやいたのは置いておこう。
「お前は毎日毎日飽きもせずに、よくこの店に来てくれるな」
カウンターに立った閻火が、嫌味を込めて睨みを利かす。
けれど桃源はそんなことおかまいなしに幸せそうにスプーンを進める。
「萌香さんのケチャップべちゃべちゃのオムライスにハマってしまいまして……ご飯の部分までケチャップの量を追加できるだなんて最高ですよぉ」
毎日ランチタイム開始時に現れ、閉店の夕方まで何回もおかわりしてやっと帰る。
そしてまた次の日にやって来るの繰り返しだ。
そんなわけで嫌でも同じ空気を吸わなくてはならない状況が続き、いつの間にか鬼たちは桃嫌いを克服しつつある。
最初は鳥肌が立ったり顔が青くなったりと大変だったけれど、今はこうして間近で目を合わせて会話ができるまでになった。
食器の手入れをしている藍之介も、カウンター越しに桃源がいてもずーっと平然としている。二人とも荒療治が効いたようだ。
私もキッチンに戻ると、おばさんたちが注文した料理に取りかかる。
風子はおしぼりと水をトレーに載せ運んだついでに、世間話を楽しんでいた。
「ここに入り浸り職務を放棄していればただでは済まないだろう」
「でしょうねえ」
桃源はクリームソーダで口内を潤すと、指先で摘んでいたストローでグラスの氷をくるくるかき混ぜだ。
「天国での暮らしも飽きてきたので私もこちらにお世話になろうかと……萌香さん、もう一人従業員はいかがですか?」
まさかの申し出に食材を切る手が滑りそうになる。
私が返事をするより先に、隣に立った閻火がぷるぷると身体を震わせていた。
「いらんに決まっとるだろう! さっさと帰れこの黄桃頭!」
「尖りもありませんし獣にもならないので、私の方が人間らしいと思うんですがねぇ」
冷静に考えてみると相当危ない会話だ。
今は空いていておばさんたちも風子が接客中なので助かった。
真剣に耳を傾けたところで間に受ける人はいないと思うけれど。
桃源はよくも悪くもマイペースな性格らしい。
「お前は毎日毎日飽きもせずに、よくこの店に来てくれるな」
カウンターに立った閻火が、嫌味を込めて睨みを利かす。
けれど桃源はそんなことおかまいなしに幸せそうにスプーンを進める。
「萌香さんのケチャップべちゃべちゃのオムライスにハマってしまいまして……ご飯の部分までケチャップの量を追加できるだなんて最高ですよぉ」
毎日ランチタイム開始時に現れ、閉店の夕方まで何回もおかわりしてやっと帰る。
そしてまた次の日にやって来るの繰り返しだ。
そんなわけで嫌でも同じ空気を吸わなくてはならない状況が続き、いつの間にか鬼たちは桃嫌いを克服しつつある。
最初は鳥肌が立ったり顔が青くなったりと大変だったけれど、今はこうして間近で目を合わせて会話ができるまでになった。
食器の手入れをしている藍之介も、カウンター越しに桃源がいてもずーっと平然としている。二人とも荒療治が効いたようだ。
私もキッチンに戻ると、おばさんたちが注文した料理に取りかかる。
風子はおしぼりと水をトレーに載せ運んだついでに、世間話を楽しんでいた。
「ここに入り浸り職務を放棄していればただでは済まないだろう」
「でしょうねえ」
桃源はクリームソーダで口内を潤すと、指先で摘んでいたストローでグラスの氷をくるくるかき混ぜだ。
「天国での暮らしも飽きてきたので私もこちらにお世話になろうかと……萌香さん、もう一人従業員はいかがですか?」
まさかの申し出に食材を切る手が滑りそうになる。
私が返事をするより先に、隣に立った閻火がぷるぷると身体を震わせていた。
「いらんに決まっとるだろう! さっさと帰れこの黄桃頭!」
「尖りもありませんし獣にもならないので、私の方が人間らしいと思うんですがねぇ」
冷静に考えてみると相当危ない会話だ。
今は空いていておばさんたちも風子が接客中なので助かった。
真剣に耳を傾けたところで間に受ける人はいないと思うけれど。
桃源はよくも悪くもマイペースな性格らしい。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
サウナマナー無双・童貞田中の無言サウナ
鷺谷政明
キャラ文芸
サウナマナー日本1位を自負する童貞・田中の唯一の楽しみは、週に一度の銭湯通い。誰とも関わりを持たずにサウナの世界に没頭したい田中が、大衆浴場コミュニティに巻き込まれていく一話完結型ドラマ。全10話。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる