鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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 「え? え?」と動揺の声を繰り返しながら彼女と葉月ちゃんを交互に見る。

「お母さん、食べる系インフルエンサーなんです。SNSを通じて自分が気に入ったお店の紹介をしてて」
「ええっ、じゃあ昨日葉月ちゃんは知ってて黙ってたの!?」
「それは違うんですよ、実は私もお母さんがどんなふうにお店を回ってるか知らなくて」

 驚くべきことに葉月ちゃんも昨日の変質者のような服装をした女性が自分の母親だとは知らなかったらしい。
 調査する店や気分に合わせ、時に大和撫子、時にゴスロリ、時に男性のふりまでするのが彼女のこだわりだとか。
 なぜそんなことをするのかと聞くと、見た目で差別せず平等な接客をしているか知るためだそうだ。
 なにが琴線に触れたのか定かではないけれど、とにかく彼女は私とこの店を気に入り褒め称える感想を書いてくれたようだ。ネット界隈に疎い私は彼女のSNSでの存在感を知る由もなかったけれど、これだけの人数が一気に集まるところを見るとかなり影響力がありそうだ。

「リーフムーンって見聞きしたことないっ? 食事のライターとしてカフェ雑誌とかでもたまに書いてるんだけど」

 彼女は周りに聞こえないようにこそっと私に耳打ちした。顔バレを防いでいるようだ。
 リーフムーン……そういわれてみればどこかでお目にかかったことがあるような?
 その回答はすぐ後ろからやってきた。

「お前が持っていた雑誌に載っていたぞ、俺がフレンチトーストを出した……」

 閻火の助言で「ああっ!」とすっきり思い出す。
 私がたまに買っていたおしゃれなカフェ雑誌。そこの紹介文を書いている人の名前だったのだ。ついおいしそうな写真にばかり目が行き、文章やライターにまで気が行かなかったのではっきり記憶していなかった。
 それを考えると閻火はさすがだ。
 そしてそんなに有名な人が葉月ちゃんの母親で私を勧めてくれたなんて、いろんな方向から驚きがあり、嘘のような話だった。
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