鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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赤鬼と青鬼

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「やはりお前だったか、蒼牙そうが

 もはや聞き慣れた声とともに私たちの前に現れたのは言うまでもない、彼だった。
 蒼牙と呼ばれた彼は、後方に立つ赤鬼に流すような目をくれる。
 気づけば辺りの青い靄は晴れ、いつもの本屋に戻っていた。

「やあ閻魔大王、早いお目覚めだね、僕が地獄にいた時はよく寝過ごしていたのに」

 藍之介の言葉に二人の繋がりを見る。
 鬼の姿の閻火が目を顰め、苦々しい表情で立ちはだかる人物を見据えた。

「俺の指輪の能力をキャンセルできるとは、鬼の力は健在のようだな」

 次々に気になる台詞が行き交い、座り込んだまま二人の顔を交互に見比べる。

「どう、いうこと……? 藍之介は鬼、で、閻火の知り合い、で……?」

 自分の中で整理させるように言葉にして述べてみる。

「こいつの本当の名は蒼牙、俺が閻魔大王に就いた当初から右腕となり働いていた優秀な鬼だ」
「……え? じゃあ前話してた天邪鬼になった側近ってまさか」
「そのまさかだ」

 動揺して瞳をころころ動かし回る。
 以前閻火が寂しげに語っていた同胞。
 だとしたら彼は、なにかしら嘘をついたことになる。

「だが俺はどうしても腑に落ちん。お前のような優秀な鬼がそんな過ちを犯すとは」

 みなまで言わなくても藍之介は閻火の意図を汲んだようだ。
 その証拠にふっ、と風が吹き抜けるように綺麗に笑った。

「そうだよ、僕はわざと嘘をついた。人間になりたかったから」

 これには閻火にも驚きの色が見られた。
 けれどそれはほんの一瞬。見開かれた瞳はすぐさま普段の切れ長に還る。
 なるほどと納得する部分があるように思われた。

「そうか、お前はずっと人間に興味を持っていたからな」
「ああ、僕は図書館が好きだった、毎日人間の本を借りて読み耽った。そして……人間の女の子と恋がしたいと思ったんだ」

 藍之介の視線は、私に投げかけられた。
 先ほどの威圧的なものではなかった。
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