鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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挑戦と距離

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 閻火が一口食べる前に、二人の熱い視線を感じた。
 風子も葉月ちゃんも、大きくした目でじーっとオムライスを見ている。

「風子も食べたいなぁ、おいしそうなんだもん」
「あたしも、少し食べてみたい、です」
「そうかそうか、ならばみなでシェアするぞ!」

 完全なとろとろ系ではなく、硬さが残ったふわりとした卵。閻火はそこにスプーンを差し込むと、小さく二人分を切り離す。そして二人が先に食べ終えてからになったお皿に移動させた。
 さっきまで満腹を訴えていたのに、甘酸っぱい匂いに食欲を刺激されたのだろうか。やっぱりケチャップは魔法のソースだ。
 それぞれの「いただきます」が合わさり、各自一斉に口に含む。
 「ん~!」と最初にわかりやすく反応を示したのは風子だった。

「おいしーい、風子絶対こっちの方が好きっ」
「あたしはどちらもいいと思います。デミグラスのちょっとした記念日に食べたい味に対してこちらのは日常的に食べたい味だなと感じました」

 風子の子供らしい発言と違って、葉月ちゃんの大人びた食レポに感心してため息が出た。

「すごいね葉月ちゃん、感想が上手」
「えっ? そ、そうですか、もしかしてうつっちゃったのかも……」

 なにがうつったのだろう、と探っている場合ではない。
 肝心な相手の言葉をまだ聞いていないのだから。
 チラッと閻火を窺い見ると、カウンターに背を預けながらじっくり味わうように口を動かしている。
 私が出したものの一口を、閻火は必ず目を閉じて受け止める。舌だけに感覚を集中させているのだろう。
 私と同じように、閻火も真剣だ。
 だからこそ挑戦する価値がある。
 やがて開いた真紅の瞳は、微かにしなり私を映していた。

「ふん、今までの中で一番マシではないか、七十点といったところか」

 しばし開いた口が塞がらず、息を吸うのも忘れる。
 聞き間違いではないかと鼓膜の調子を疑ったくらいだ。
 七十点といえば学校のテストでは大抵平均点以上。
 初めてもらった高得点にふつふつと喜びが湧き上がる。
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