鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
48 / 158
原点回帰

8

しおりを挟む
「よーし閻火、その辺に座ってて、すぐに持って行きますから!」

 促された閻火はキッチンを出ると、すぐに折り返しカウンターの椅子に腰を下ろした。
 ちょうど真ん中の席。藍之介のお気に入りと同じだ。
 
 コンロに置いたフライパンにオリーブオイルを垂らし点火する。少し厚めに切った玉ねぎとピーマン、ベーコンをへらで炒め合わせながらケチャップを中心に味つけを。茹であがったパスタに特製ソースを絡め、最後に塩こしょうで整えれば完成だ。
 パスタって最強だと思う。
 野菜と肉系を組み合わせて調味料を入れれば、見た目も味もそれなりになるのだから。

 後ろにある食器棚から楕円形のお皿を取り出すと、フライパンからパスタを移動させる。
 料理評論家に出すわけではないとわかっていても、自然と盛りつけに気合いが入った。
 よく考えてみれば、自分の作ったものをしっかりと批評してもらったことがない。
 おばあちゃんや藍之介は優しすぎたし、肝心な家庭は手料理を楽しめるような環境ではなかった。おまけに学校にも行きそびれてしまったので、ようやく機会が巡ってきたと言えるかもしれない。
 「できあがりー!」と威勢のいい声を上げると、堂々と閻火の前にお皿を置く。銀色のフォークも忘れずに。
 
「どうぞ、うちの特製ナポリタンです」

 たぶん。という語尾が喉まで出かかりどうにか飲み込む。
 そんな状況を知ってか知らずか、閻火は漂う湯気の中、オレンジ色の麺に視線を落としていた。
 匂いは感じるのだろうか? 
 鬼ならもっと肉をサービスした方がよかった?
 読み取れない表情をしているので不安が募る。
 不意に閻火が動きを見せ、右手に握ったフォークを料理に滑り込ませた。
 カトラリーなど放り出して手掴みで食べるかと思いきや、慣れた手つきでくるくるとパスタを巻いていく。
しおりを挟む

処理中です...