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求婚ナルシスト
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「あらかたわかった、つまりこの店を繁盛させるために日々奮闘している、と」
やっぱり、と思った。
閻火が先ほど見ていた紙には、私の個人情報が綴られていたに違いない。
赤ちゃんの時から消えない恥ずかしい蒙古斑のことまで。
子供の頃友達とお風呂に入ったり水着になる時、よく「猫ちゃんマークだ!」と大きな声で言われ顔を真っ赤にしたりした。
生みの母からの忌まわしい置き土産だ。
「……人間の経歴みたいなものを、管理してるわけですか?」
「当然だろう、管理しているのは俺ではないがな。俺はそれを見て天国か地獄、どちらに送るか決める役割だ」
つまり人間にとってはたまらない、恥部カルテとも呼べる代物なのだ。
とはいえ方法はなんであれ、私が嫁に行けないという事情が伝わったのなら言うことはない。恥のかき甲斐があったというものだ。
なのに閻火は不服そうな顔で、じっと腕を組み立っている。
「俺は認めんぞ、こんなおんぼろ喫茶のためにお前をあきらめる気はない」
その口からこぼれた台詞に、ぴたりと動きを止めた。
痺れたような唇を動かし、どうにか言葉にする。
「あの……今のもう一回、言ってもらえますか?」
「あきらめる気はない」
「その……前の部分です」
「おんぼろ喫茶」
再来した無慈悲な言語に、かーっと頭に血が上る。が、それはすぐさま急降下する。
まるで火山から氷山に転げ落ちるように、熱は一瞬のうちに失われた。
怒りよりも虚しさの方が強かった。
レトロやアンティークなどの言葉を並べてみる。
そうすると古い建物も、設備だって、おしゃれの一環に感じられる魔法のようだ。
だけどレトロやアンティークが、単に古いという意味ではないことくらい私にもわかっていた。
この店がもはやそれではなく、お……おんぼろに近いということも。
やっぱり、と思った。
閻火が先ほど見ていた紙には、私の個人情報が綴られていたに違いない。
赤ちゃんの時から消えない恥ずかしい蒙古斑のことまで。
子供の頃友達とお風呂に入ったり水着になる時、よく「猫ちゃんマークだ!」と大きな声で言われ顔を真っ赤にしたりした。
生みの母からの忌まわしい置き土産だ。
「……人間の経歴みたいなものを、管理してるわけですか?」
「当然だろう、管理しているのは俺ではないがな。俺はそれを見て天国か地獄、どちらに送るか決める役割だ」
つまり人間にとってはたまらない、恥部カルテとも呼べる代物なのだ。
とはいえ方法はなんであれ、私が嫁に行けないという事情が伝わったのなら言うことはない。恥のかき甲斐があったというものだ。
なのに閻火は不服そうな顔で、じっと腕を組み立っている。
「俺は認めんぞ、こんなおんぼろ喫茶のためにお前をあきらめる気はない」
その口からこぼれた台詞に、ぴたりと動きを止めた。
痺れたような唇を動かし、どうにか言葉にする。
「あの……今のもう一回、言ってもらえますか?」
「あきらめる気はない」
「その……前の部分です」
「おんぼろ喫茶」
再来した無慈悲な言語に、かーっと頭に血が上る。が、それはすぐさま急降下する。
まるで火山から氷山に転げ落ちるように、熱は一瞬のうちに失われた。
怒りよりも虚しさの方が強かった。
レトロやアンティークなどの言葉を並べてみる。
そうすると古い建物も、設備だって、おしゃれの一環に感じられる魔法のようだ。
だけどレトロやアンティークが、単に古いという意味ではないことくらい私にもわかっていた。
この店がもはやそれではなく、お……おんぼろに近いということも。
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