鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
23 / 158
求婚ナルシスト

11

しおりを挟む
「あらかたわかった、つまりこの店を繁盛させるために日々奮闘している、と」

 やっぱり、と思った。
 閻火が先ほど見ていた紙には、私の個人情報が綴られていたに違いない。
 赤ちゃんの時から消えない恥ずかしい蒙古斑のことまで。
 子供の頃友達とお風呂に入ったり水着になる時、よく「猫ちゃんマークだ!」と大きな声で言われ顔を真っ赤にしたりした。
 生みの母からの忌まわしい置き土産だ。

「……人間の経歴みたいなものを、管理してるわけですか?」
「当然だろう、管理しているのは俺ではないがな。俺はそれを見て天国か地獄、どちらに送るか決める役割だ」

 つまり人間にとってはたまらない、恥部カルテとも呼べる代物なのだ。
 とはいえ方法はなんであれ、私が嫁に行けないという事情が伝わったのなら言うことはない。恥のかき甲斐があったというものだ。
 なのに閻火は不服そうな顔で、じっと腕を組み立っている。
 
「俺は認めんぞ、こんなおんぼろ喫茶のためにお前をあきらめる気はない」

 その口からこぼれた台詞に、ぴたりと動きを止めた。
 痺れたような唇を動かし、どうにか言葉にする。
 
「あの……今のもう一回、言ってもらえますか?」
「あきらめる気はない」
「その……前の部分です」
「おんぼろ喫茶」

 再来した無慈悲な言語に、かーっと頭に血が上る。が、それはすぐさま急降下する。
 まるで火山から氷山に転げ落ちるように、熱は一瞬のうちに失われた。
 怒りよりも虚しさの方が強かった。
 
 レトロやアンティークなどの言葉を並べてみる。
 そうすると古い建物も、設備だって、おしゃれの一環に感じられる魔法のようだ。
 だけどレトロやアンティークが、単に古いという意味ではないことくらい私にもわかっていた。
 この店がもはやそれではなく、お……おんぼろに近いということも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

そんなふうに見つめないで…デッサンのモデルになると義父はハイエナのように吸い付く。全身が熱くなる嫁の私。

マッキーの世界
大衆娯楽
義父の趣味は絵を描くこと。 自然を描いたり、人物像を描くことが好き。 「舞さん。一つ頼みがあるんだがね」と嫁の私に声をかけてきた。 「はい、なんでしょうか?」 「デッサンをしたいんだが、モデルになってくれないか?」 「え?私がですか?」 「ああ、

結婚前の彼の浮気相手がもう身籠っているってどういうこと?

ヘロディア
恋愛
一歳年上の恋人にプロポーズをされた主人公。 いよいよ結婚できる…と思っていたそのとき、彼女の家にお腹の大きくなった女性が現れた。 そして彼女は、彼との間に子どもができたと話し始めて、恋人と別れるように迫る。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...