鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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理想と現実

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 愛にもいろんな種類がある。
 親愛とか敬愛とか。男女に使うような情愛を除けば、私のすべてのそれを担っていたと言っても過言ではないおばあちゃん。
 
 年季を感じさせる細かい傷のついた、色あせも見られる木造りのカウンター。
 コーヒーミルやサーバー、ドリップケトルなどの器具が所狭しの並ぶ端には、至ってシンプルな卓上カレンダーが置かれている。
 10、と書かれた数字の背景には銀色に染まるススキの写真。
 確かおばあちゃんがいなくなった頃は、桜が満開の背景だった。
 あれからもう半年も経つのかと、時の残酷さを感じずにはいられない。

 はああ……と盛大なため息をつく。
 ワインレッドの革張りの椅子に腰かけ、頭を抱える私の前にはA4サイズのノートがある。
 この春まで通っていた高校時代に買い置きしていた授業用のノートだ。
 長方形のテーブルの上に開かれた白い紙には、走り書きとも殴り書きとも取れる数字がぎっしり並んでいる。
 
 暖色系の明かりに照らされやや黄色みがかって見えるそれは、悲しいかな黒字はほぼ見当たらない。ほとんどが赤い文字で埋められている。
 そう、文字通り赤字なのだ。
 このところ私を悩ませている原因はこれ。
 おばあちゃんが経営していた喫茶店を継ぐと宣言したのはいいものの、まったく成果が上がっていなかった。

 何をするにも勢いは大事だと思うけれど、お客様の収集は気合だけではどうしようもない。
 季節が移り変わっても、売り上げを記す矢印は斜め下に向かう一方だ。
 実家を出てみて初めて、いかに生活費がかかるのかを知った。
 水道、ガス、電気、日用品に通信費。
 いつお客様が来てもいいように食材は常に多めに用意しておかなければならないので、そこでまた代金がかさむ。
 持ち家なので賃料がかからないのが唯一の救いだが、このままではおばあちゃんが私に残してくれた貯金が底をつくのも時間の問題だ。
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