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4.ほどける心
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「理人が……海斗を悪く言ったのも、謝りたくて」
「なんで、ひながあいつのこと謝るんだ?」
「理人がああなったのは、私のせいでもあるから」
膝に置いた両手に、静かに力を込めた。
「理人は私のいとこで、小さな頃から家族ぐるみでよく出かけたの。もう、八年前になるかな? その時はまだ理人も、子供っぽい怖いもの知らずなところがあって、キャンプ場にあるちょっと危ない川で遊ぼうって、私を誘ったの。そこの渓谷で、私が足を滑らして……川に落ちちゃって」
私の話を、海斗が隣で真剣に聞いているのがわかる。
「すぐに親たちが駆けつけてくれて助かったんだけど、ちょうどその後すぐに私のこの病気が診断されて……理人は、自分が川に誘ったことで、私が溺れたから肺に異常をきたしたんだって思ってるの。もちろん、そんなわけない。その前から息苦しさや胸の痛みを感じることがあったから、いつから、なんて、はっきりしたことなんてわからないから」
それ以来、理人は滅多に笑わなくなり、人が変わったように私に固執するようになった。
周りがどれだけ理人のせいではないと言っても、未だに彼を苦しめる呪縛。
それに私への想いが加わり、理人もきっと必死だったのだと思う。
「……そっか、あいつも悩んだんだな。でもさ、それとこれってまた別の話じゃねえ?」
「……え?」
「ひなが病気なのはひなのせいじゃない。身体が思う通りにならねえって、きっとめちゃくちゃ辛いよな? それ以上にがんばる必要なんて、ないんじゃねえか、って。ああ、ええと……」
海斗は頭を掻きながら、苦手な言葉選びをしているようだった。
「つまり、その、ひなはもっと自分のことだけ考えていいんじゃねえか、ってこと。……ごめん、俺、頭悪いからうまく言えなくて」
「なんで、ひながあいつのこと謝るんだ?」
「理人がああなったのは、私のせいでもあるから」
膝に置いた両手に、静かに力を込めた。
「理人は私のいとこで、小さな頃から家族ぐるみでよく出かけたの。もう、八年前になるかな? その時はまだ理人も、子供っぽい怖いもの知らずなところがあって、キャンプ場にあるちょっと危ない川で遊ぼうって、私を誘ったの。そこの渓谷で、私が足を滑らして……川に落ちちゃって」
私の話を、海斗が隣で真剣に聞いているのがわかる。
「すぐに親たちが駆けつけてくれて助かったんだけど、ちょうどその後すぐに私のこの病気が診断されて……理人は、自分が川に誘ったことで、私が溺れたから肺に異常をきたしたんだって思ってるの。もちろん、そんなわけない。その前から息苦しさや胸の痛みを感じることがあったから、いつから、なんて、はっきりしたことなんてわからないから」
それ以来、理人は滅多に笑わなくなり、人が変わったように私に固執するようになった。
周りがどれだけ理人のせいではないと言っても、未だに彼を苦しめる呪縛。
それに私への想いが加わり、理人もきっと必死だったのだと思う。
「……そっか、あいつも悩んだんだな。でもさ、それとこれってまた別の話じゃねえ?」
「……え?」
「ひなが病気なのはひなのせいじゃない。身体が思う通りにならねえって、きっとめちゃくちゃ辛いよな? それ以上にがんばる必要なんて、ないんじゃねえか、って。ああ、ええと……」
海斗は頭を掻きながら、苦手な言葉選びをしているようだった。
「つまり、その、ひなはもっと自分のことだけ考えていいんじゃねえか、ってこと。……ごめん、俺、頭悪いからうまく言えなくて」
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