君と命の呼吸

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
32 / 45
4.ほどける心

5

しおりを挟む
「理人が……海斗を悪く言ったのも、謝りたくて」
「なんで、ひながあいつのこと謝るんだ?」
「理人がああなったのは、私のせいでもあるから」

 膝に置いた両手に、静かに力を込めた。

「理人は私のいとこで、小さな頃から家族ぐるみでよく出かけたの。もう、八年前になるかな? その時はまだ理人も、子供っぽい怖いもの知らずなところがあって、キャンプ場にあるちょっと危ない川で遊ぼうって、私を誘ったの。そこの渓谷で、私が足を滑らして……川に落ちちゃって」

 私の話を、海斗が隣で真剣に聞いているのがわかる。

「すぐに親たちが駆けつけてくれて助かったんだけど、ちょうどその後すぐに私のこの病気が診断されて……理人は、自分が川に誘ったことで、私が溺れたから肺に異常をきたしたんだって思ってるの。もちろん、そんなわけない。その前から息苦しさや胸の痛みを感じることがあったから、いつから、なんて、はっきりしたことなんてわからないから」

 それ以来、理人は滅多に笑わなくなり、人が変わったように私に固執するようになった。
 周りがどれだけ理人のせいではないと言っても、未だに彼を苦しめる呪縛。
 それに私への想いが加わり、理人もきっと必死だったのだと思う。

「……そっか、あいつも悩んだんだな。でもさ、それとこれってまた別の話じゃねえ?」
「……え?」
「ひなが病気なのはひなのせいじゃない。身体が思う通りにならねえって、きっとめちゃくちゃ辛いよな? それ以上にがんばる必要なんて、ないんじゃねえか、って。ああ、ええと……」

 海斗は頭を掻きながら、苦手な言葉選びをしているようだった。

「つまり、その、ひなはもっと自分のことだけ考えていいんじゃねえか、ってこと。……ごめん、俺、頭悪いからうまく言えなくて」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音
青春
 交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※第7回ライト文芸大賞奨励賞受賞作品です。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

漁村

ジョン・グレイディー
現代文学
第二の人生を海に求める男 積雪の中、悠久の街道を海に向かって北上する。 漁師になることを夢見ながら、寂れた漁村での男の生活が始まる。 ある日、漁港の防波堤でロットを振る若い女に出会う。 男は女に釣りを教えながら、過去の淡い因果を女の中に感じ取る。 男と女の運命的な繋がりが見え隠れする中、2人はこの寂れた漁村での共同生活を始め出す。 男は、失ったはずの夢と恋を海に求める。 人生に頓挫した中年男性と突如として現れた若い女性との人間ドラマ。

若紫の君と光源氏になれない僕

いなほ
青春
❀平安時代や『源氏物語』に詳しくない方でもお楽しみいただけるようになっています❀ 「生きる意味って何?」と思っている人、夢に一歩踏み出せない人に読んでほしい、もちろんそれ以外の人にも。 この時代には超えてはいけないものがある。破ってはいけないものがある。 たとえ光源氏になれなくても。 僕は……あなたの願いを叶えたいんだ。 時は平安時代。源氏物語が記された一条帝の治世から少し時を経た頃。 朝廷で下級役人として働く雅行は「歌嫌い」で、何事にも興味を示さない青年だったが……。 「桜を見せてはいただけませんか?」 自分を助けてくれた少女の願いを知った時から、雅行の心は少しずつ変わり始めていた――その時。 雅行の前にある人物が現れる。人知を超える「桜」の力で現れたというその人物は雅行が最も知りたくない真実を雅行に告げるのだった。 偽ることのできない自分の心と、自らと少女の間にある決して越えられない壁。 それを目の当たりにした先に、雅行は何を選ぶのか――? 「桜」を巡る思惑のなかで、「若紫」を映した少女と「光源氏」にはなれない青年が秘められていた自分の願いと生きる意味を見出していく、平安青春ファンタジー。 ・カクヨムでも掲載しています。 ・時代考証は行なっておりますが、物語の都合上、平安時代の史実とは違う描写が出てくる可能性があります。

玄洋アヴァンチュリエ

天津石
青春
「あんたもしかして泳げんと?まったく、男なんに情けなかね!」  彼女が僕にかけた、最初の言葉だった。  自称進学校に通う「凪(ナギ)」はどこか非日常を夢見ながら退屈な日々を送っていた。 迎えた夏休み、両親の海外赴任をきっかけに、北九州・門司港の遠い親戚のもとへ預けられる。  そこで出会ったのは『子供向けのおとぎ話』として誰も信じない『宝島伝説』を信じ、玄界灘の先への航海を企む勝ち気な少女「暁(アキラ)」だった。  錨を上げるのは平凡な少年と変わり者の少女。  真逆な性格の二人による、ひと夏をかけた冒険が始まる!

転校してきた美少女に僕はヒトメボレ、でも彼女って実はサキュバスらしい!?

釈 余白(しやく)
青春
 吉田一(よしだ かず)はこの春二年生になった、自称硬派な高校球児だ。鋭い変化球と抜群の制球で入部後すぐにエースとなり、今年も多くの期待を背負って練習に精を出す野球一筋の少年である。  かたや蓮根咲(はすね さき)は新学期に転校してきたばかりの、謎めいてクールな美少女だ。大きな瞳、黒く艶やかな髪、凛とした立ち姿は、高潔さを感じるも少々近寄りがたい雰囲気を醸し出している。  そんな純情スポ根系野球部男子が、魅惑的小悪魔系女子へ一目惚れをしたことから、ちょっとエッチで少し不思議な青春恋愛ストーリーが始まったのである。

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

処理中です...