君と命の呼吸

碧野葉菜

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3.夢の戯れ

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 理人の暴露の咆哮に、全身が戦慄わななく。
 静まり返った海辺で、腰を掴んでいた理人を突き離した。
 とても、海斗の顔を見られなかった。
 今まで堪えていた何かが張り詰め、ぷつりと切れるような感覚を最後に、底から暗い澱みが溢れ出す。

「なん、で……なんで、言わないで、て、言ったのに」
「陽波、俺はお前のために」
「私のためって何、いつ私が理人に私を管理してほしいって頼んだの!? 理人はあの日の罪滅ぼしをしたいだけでしょう!? どうしてほんの少しの夢も見させてくれないの、海斗の前でだけは普通の元気な女の子でいたかったのに!」

 弾けてしまえば、もう止まらなかった。
 理人が傷ついた顔をしているのは、わかっていたのに。

「理人といるとしんどい、理人といると疲れるの! もう、もう、いや――」

 あれ……息って、どうやってするんだっけ。

 肺と心臓に入った亀裂が、一気に全身に広がるような、悶絶する激痛に胸を押さえ、倒れ込む。

 陽波、陽波、と、理人が名を呼ぶのに混じって、知らない人たちが遠巻きにこちらを傍観している。
 海斗は、私を見ていた。
 立ちすくんだまま、視線は逸らさず、そこにいた。

 ――うみ、と。

 乾いた唇がそう型取った。
 声は、もう出ない。
 
 なのに、海斗は呼ばれたのがわかったように、駆け出した。
 
 気絶する直前、海斗の力強い腕と体温、しょっぱい潮の香りを感じた……気がした。
 それは都合のいい、ただの願望だったかもしれない。
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