君と命の呼吸

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
17 / 45
3.夢の戯れ

1

しおりを挟む
 海斗と約束までの十日間、通話アプリで交流をした。
 海斗は漁船で行った辺りの景色や、漁で捕った魚の写真をよく送ってくれた。
 たまに酔っ払った漁師仲間や、海斗自身が変な顔をした写真も紛れていて、不意打ちに笑わされた。
 海斗には垣根がなかった。
 つい先日知り合ったばかりとは思えないほど、あっという間に海斗は私の生活に溶け込んだ。
 地方の住民は距離が近いとは聞いたことがあるけれど、海斗は特別に思えた。
 それは私が彼を特別に感じているのが大前提だったかもしれない。

 体調が、とてもよかった。
 お姉ちゃんも驚くほど、検査結果も良好で安定していた。
 その理由が、単にこの地域の空気の美しさにとどまらないことは明らかだった。
 海斗と繋がっているだけで、毎日のように薬を飲む苦痛も、少し和らいだ。
 楽しみがあるのは、生きる糧になるのかと思った。

 海斗と会う日を次の土曜にしたのは、お姉ちゃんが他の病院に研修に行き、すぐには帰って来られないと知っていたからだ。
 そしてその日、理人は実家から来た親たちに、ここでの暮らしを伝えながら周辺を案内すると言っていた。
 いつも心配してくれるお姉ちゃんと理人に「家で待ってる」と嘘をつくのは心苦しかったけれど、海斗に会いたい気持ちの方が遥かに勝っていた。
 二人が不在で長い時間一人になれるのは、ここしかなかった。だから決めた。
 一生の思い出を作ろうと。
 勝手に希望にしてごめんねと、心の中で海斗に謝りながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音
青春
 交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※第7回ライト文芸大賞奨励賞受賞作品です。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

漁村

ジョン・グレイディー
現代文学
第二の人生を海に求める男 積雪の中、悠久の街道を海に向かって北上する。 漁師になることを夢見ながら、寂れた漁村での男の生活が始まる。 ある日、漁港の防波堤でロットを振る若い女に出会う。 男は女に釣りを教えながら、過去の淡い因果を女の中に感じ取る。 男と女の運命的な繋がりが見え隠れする中、2人はこの寂れた漁村での共同生活を始め出す。 男は、失ったはずの夢と恋を海に求める。 人生に頓挫した中年男性と突如として現れた若い女性との人間ドラマ。

若紫の君と光源氏になれない僕

いなほ
青春
❀平安時代や『源氏物語』に詳しくない方でもお楽しみいただけるようになっています❀ 「生きる意味って何?」と思っている人、夢に一歩踏み出せない人に読んでほしい、もちろんそれ以外の人にも。 この時代には超えてはいけないものがある。破ってはいけないものがある。 たとえ光源氏になれなくても。 僕は……あなたの願いを叶えたいんだ。 時は平安時代。源氏物語が記された一条帝の治世から少し時を経た頃。 朝廷で下級役人として働く雅行は「歌嫌い」で、何事にも興味を示さない青年だったが……。 「桜を見せてはいただけませんか?」 自分を助けてくれた少女の願いを知った時から、雅行の心は少しずつ変わり始めていた――その時。 雅行の前にある人物が現れる。人知を超える「桜」の力で現れたというその人物は雅行が最も知りたくない真実を雅行に告げるのだった。 偽ることのできない自分の心と、自らと少女の間にある決して越えられない壁。 それを目の当たりにした先に、雅行は何を選ぶのか――? 「桜」を巡る思惑のなかで、「若紫」を映した少女と「光源氏」にはなれない青年が秘められていた自分の願いと生きる意味を見出していく、平安青春ファンタジー。 ・カクヨムでも掲載しています。 ・時代考証は行なっておりますが、物語の都合上、平安時代の史実とは違う描写が出てくる可能性があります。

玄洋アヴァンチュリエ

天津石
青春
「あんたもしかして泳げんと?まったく、男なんに情けなかね!」  彼女が僕にかけた、最初の言葉だった。  自称進学校に通う「凪(ナギ)」はどこか非日常を夢見ながら退屈な日々を送っていた。 迎えた夏休み、両親の海外赴任をきっかけに、北九州・門司港の遠い親戚のもとへ預けられる。  そこで出会ったのは『子供向けのおとぎ話』として誰も信じない『宝島伝説』を信じ、玄界灘の先への航海を企む勝ち気な少女「暁(アキラ)」だった。  錨を上げるのは平凡な少年と変わり者の少女。  真逆な性格の二人による、ひと夏をかけた冒険が始まる!

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...