金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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 それを聞いた時、あゆらは奥歯を噛みしめた。最後に話された少女の特徴が、間違いなく美鈴を指していたからだ。
 美鈴はかばった友人の身代わりに売られたのだ。美鈴が拒否すれば、その友人に再び被害が及んだだろう。
 一度闇の世界に踏み込んでしまえば、友人が引っ越し、いなくなったからといってそう安易と足を洗うことは許されない。こんなことは、親にも誰にも、話せないのだから。
 
「あたしがここに来たのが二年くらい前だから、それ以前のことは知らないけどね。……そうそう、今思い出した、確かそいつ超やばかったんだよね」
「やばい……何がや?」
「売られた子と何回かしゃべったんだよね、もうここにはいないけどさ。その時聞いたの、そいつに一度も手出されたことないって。裸の写真撮ってるのにだよ? おかしくない? 普通ヤるよね、そこまでしてるのにさあ。でもまったく興奮してる様子もなかったって。ホモか不能かよ。別方向にやばいよね」

 これには二人も驚いた。
 確かにアリスが言ったように、裸にして売り飛ばすくらいなら、売る男の性のけ口になってからだと考えていたからだ。
 理由はわからないが、どうやら清志郎は女を犯したことがないらしい。

「なんか特殊な性癖でもあるのかな、あれは普通じゃなかったよ。今まで色んなクソ男見て来たけど、ああいう静かなのが一番怖いよ、笑いながら人殺しそうなタイプ」

 アリスはそう言ってタバコをふかしながらゲラゲラ笑った。
 なかなかの修羅場を経験してきたのだろう、その目利きはあながち間違えてはいなかった。

「その、こいつに売られた女の子が今どこにおるか知ってる?」
「知らなーい。基本商品同士の連絡先交換とか禁止されてるし、興味もないし」

 自分たちのことを当然のように“商品”と呼んでしまうアリスに、あゆらの胸が痛んだ。
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