金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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「……なんかそれ、嬉しいな。あゆらにだけはいつでも見せたるわ」

 そう言って志鬼は、一思いにアンダーシャツを脱ぎ払った。
 するとそこに現れる、あの日屋上で見て以来の鬼の姿。彫った者と彫られた者、両者の覚悟のような強い思いを感じさせる刺青は、赤の他人に易々と見せられるものではないだろう。それでも自分には躊躇なく披露してくれる志鬼に、あゆらは胸の辺りがじんとした。

「……す、少し近くに行ってもいいかしら?」
「どーぞどーぞ。っていうか、さっきまでくっついてたやん」

 待ってますと言わんばかりに、押し入れの前にあぐらをかいて陣取る志鬼に、あゆらは遠慮がちに近づいた。
 以前見たのは背中だけだったので、こうして正面から志鬼の上半身を見るのは初めてである。

「……これって、どうやって作られているの?」

 志鬼の腕一面、そして肩にまで及んだ桜吹雪をしげしげと見ながらあゆらが聞く。

「刃物で刺したり切ったりしながら墨入れるんやで」
「い、痛くないの? あ、麻酔をするのかしら?」
「する奴もおるけど俺はしてない。基本的にこれだけ痛みに耐えたっていう根性の証明やったりするからな。……まあ、俺の場合はケジメみたいなものやったから、痛みを消したら意味なくなるし」
「そう、なのね……」

 “ケジメ”……一体何の?
 あゆらは喉まで出かかったそんな質問を飲み込んだ。それを聞くのは、たぶん今ではない気がしたからだ。
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