金色の庭を越えて。

碧野葉菜

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第三章、汚れた大人たち

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「けど怖い場所ってことは肝に銘じとかなあかんで。あゆらが……たぶんこんなことでもなければ一生見ることのなかった世界なんやから」
「わかったわ。でも志鬼が一緒なんだから大丈夫でしょう」

 そこまで信頼されると、危なっかしいような、男として誇らしいような、志鬼は複雑な気持ちになった。

「……絶対俺から離れたらあかんからな」
「ええ、よろしくね」

 安心しきった笑顔でそんなことを言われると、志鬼は目眩を起こしそうだった。

 ――あかん。この顔で頼まれたら俺、死ねるわ。

 あゆらに尽くすことがすっかり快感になってしまった志鬼は、彼女のためなら命さえ惜しくないと思っている自分に気がついた。

「しかしさすがに身バレは防がなあかん。てことは変装か……女ってことがわからんように、サングラスして、帽子に髪の毛入れて……問題は服装やな、男の服着るしかないけど、俺のはでかすぎるやろうし」

 志鬼は変装後の雰囲気を想定するために、あゆらを上から下まで観察しながら言った。

「服を買って来た方がいいかしら?」
「そうやな、俺が見繕って来るわ、あゆらが選んだらやたら上品そうなの買って来そうやし」
「男性の服がよくわからないから、志鬼にお任せするわ。もちろんお代金は払うから」
「いや、それはいらん、好きな女の子にほどこしを受けるなど……」

 顎に手をやりながら首を横に振る志鬼に、そういうプライドはあるのね、と思うあゆら。
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