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お礼

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「……前のお母さんは、怖くてなにも言えなかった。結局僕らを置いて出ていったし。でも、今のお母さんは」
「優しくって、言えないの」

 血の繋がりって汚いと思う。
 どんなにひどい母親でも、子供の記憶にはこびりつく。特に幼少期のことは、ハッキリ覚えていなくても、潜在意識に刷り込まれている。
 大学の講義だったか、教授の誰かが言ってたっけ。小さな頃に愛された経験がある子は、大人になってからも人を愛することができる、って。
 この子たちは、まだ手探り状態だ。
 甘える環境に慣れていなくて、どうすればいいかわからない。その気持ちは、私にもわかる気がした。

「……ママは、二人のこと、大好きだと思うな」

 私がぽつりとこぼした言葉を、二人は逃さなかった。
 丸くした瞳で私をじっと見つめる。
 
「だって、ケチャップでハートまでつけてくれてる」

 二人は驚いたように、互いに顔を見合わせた。
 ここからでも見える、少し破れた薄焼き卵に歪に包まれたチキンライス。その上に描かれたハートを見れば、微笑ましい光景しか浮かばない。
 
「たぶん、ママはそこまで料理が得意じゃないんじゃないかな? でも二人の喜ぶ顔が見たくてがんばってる。だから『美味しい』とか『また作って』って、素直に言ってくれたら嬉しいと思うよ」

 二人の幼いながらも意志の強い目に星が散らばる。
 私が言ったことが正しいかはわからない。
 でも答えはきっと、彼らが見つけてくれるだろう。
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