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「子供の頃、全然こういうの食べたことがなくて……」
「そうなんだ、俺たちはけっこう食べさせられてたけど」
そう話す少年の後方には、彼らが座っていた席がある。その前のカウンターテーブルには小ぶりなオムライスが並んでいた。
飢えている家庭料理のためにここに通っているのかと、次の言葉を考えた。
「前のお母さんの話だけど」
私が返事をするより先に少年の補足が出た。
前の、と言われると、次の人がいると想像するのが自然だ。
「……今は、ご飯を作ってくれる人がいるの?」
「いるよ、でも、まだ恥ずかしくて、ママって呼べない」
兄の傍らに寄り添う妹が、少し伏せ目がちに答えた。
なにかしらの理由で血の繋がった母親がいなくなり、父親が新しい女性と再婚した、というところだろうか。
人の家庭は、入ってみないとわからないものだ。
けれどもじもじした様子の女の子からは、少なくとも嫌悪は感じられなかった。
「……ママは、なにを作ってくれるの?」
「いろいろ、たくさん。でも、これが一番好き」
私の質問に、女の子は右手を上げて後ろの料理を指差した。普段から作ってもらえるなら、わざわざここで食べる必要もないと思ったけれど。
「美味しくて大好きだけど『また作って』って、なかなか言えないんだよね?」
猫宮さんの助言に疑問が解ける。
母親の手作りの味まで再現できるなんて、改めて彼の能力に感服する。
それと同時に、目の前にいる兄妹がなんとも愛らしく見えた。
「そうなんだ、俺たちはけっこう食べさせられてたけど」
そう話す少年の後方には、彼らが座っていた席がある。その前のカウンターテーブルには小ぶりなオムライスが並んでいた。
飢えている家庭料理のためにここに通っているのかと、次の言葉を考えた。
「前のお母さんの話だけど」
私が返事をするより先に少年の補足が出た。
前の、と言われると、次の人がいると想像するのが自然だ。
「……今は、ご飯を作ってくれる人がいるの?」
「いるよ、でも、まだ恥ずかしくて、ママって呼べない」
兄の傍らに寄り添う妹が、少し伏せ目がちに答えた。
なにかしらの理由で血の繋がった母親がいなくなり、父親が新しい女性と再婚した、というところだろうか。
人の家庭は、入ってみないとわからないものだ。
けれどもじもじした様子の女の子からは、少なくとも嫌悪は感じられなかった。
「……ママは、なにを作ってくれるの?」
「いろいろ、たくさん。でも、これが一番好き」
私の質問に、女の子は右手を上げて後ろの料理を指差した。普段から作ってもらえるなら、わざわざここで食べる必要もないと思ったけれど。
「美味しくて大好きだけど『また作って』って、なかなか言えないんだよね?」
猫宮さんの助言に疑問が解ける。
母親の手作りの味まで再現できるなんて、改めて彼の能力に感服する。
それと同時に、目の前にいる兄妹がなんとも愛らしく見えた。
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