上 下
160 / 206
お礼

19

しおりを挟む
「急いだ瓜坊が壁に激突した時、門木が心配して声をかけてやったからな。そこから奴らの友情は続いている」

 キッチンに立つ牛坐さんは、まな板の上で包丁を動かしながら淡々と説明する。
 そのすぐそばのキッチン台にお尻を乗せた子々子ちゃんは、牛坐さんの言葉に頷きながら横顔を眺めていた。
 さすが十二支の一番手と二番手。神様との待ち合わせ場所で起こったことはすべて把握しているらしい。
 
「瓜坊がどうしてもって言うから来てやっただけだ。まあ、猫さんには何度もタダ飯もらってるしな」
「んなこと言って、宮さんリスペクトしまくってるくせに。ピアスも宮さんの影響だろ」

 犬斗くんの指摘に門木くんは「そ、そんなんじゃねえよ!」とわかりやすく狼狽えた。図星なのは明白だったが、猫宮さんは鈴のピアスが一つだけ。がんばってつけすぎだと思う。

「んで、そのカジュアルな雰囲気は俺っぽいよなぁ、おまけに最近ミーチューブ始めたらしいじゃん?」

 門木くんの目にさらなる焦りが生じる。
 犬斗くんは彼のことをよく心得ているようだ。

「こないだまでボクサー志望って言ってなかった? その前は小料理屋か銀行員始めようとか」
「門ちゃんったら、相変わらず人の真似をするのが好きなのね」
「ただの猿真似だろうが、個性のねえ奴」

 犬斗くんに続き、卯瑠香さんや繁寅さんにまで追い討ちをかけられ、門木くんは黙って部屋の片隅に縮こまってしまった。
 どうせ、どうせ俺なんて……と、ボソボソ口にしながら完全に塞ぎ込んでいる。
 なかなか自分探しの旅のゴールにたどり着かないようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『恋しくて! - I miss you. 』

設樂理沙
ライト文芸
信頼していた夫が不倫、妻は苦しみながらも再構築の道を探るが・・。 ❧イラストはAI生成画像自作 メモ--2022.11.23~24---☑済み

吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ
キャラ文芸
幽霊や妖怪などは確かに存在する。 だがその存在に気付く人間は多くはいない。 ほとんどの妖怪変化は人知れず人間社会にうまく溶け込み、互いに尊重し合って生きている。 一方で、人間社会に馴染めずトラブルを起こす妖怪や、その超常の力を利用して己の欲望を叶えようとする人間も急増しているのもまた事実。 問題を起こす者がいればそれを解決する者もいる。 これはそんな妖怪絡みの問題解決を請け負うとある探偵事務所の話である。

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

処理中です...