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お礼

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「いいのか、そんなものを食べて。ここではなかったことにはならないぞ」

 ニヤニヤ笑いながら言ってくる牛坐さんに、少し言葉に詰まったあとで「いいんです」と答える。
 確かに猫宮さんの店と違って、しっかり身になってしまうけれど、たまにはいい。そう思えるようになった。

「猫宮は人を甘やかすプロだからな」
「それは……わかります。だからたまには、甘やかされる側になってもいいんじゃないかなと」

 牛坐さんは「いい考えだ」と賛同し、子々子ちゃんは爛々とした目で大きく頷いてくれた。

「猫宮さんをもてなすなら、どこかおしゃれな店がいいでしょうか? 彼の好みを知らないので……」

 教えてもらえれば助かる。
 そんな軽い気持ちの質問だったのに、牛坐さんは一瞬神妙な面持ちになった。
 個々の前に置かれた透明グラス、水の中に積まれた氷が温度に溶けてカラリと音を立てた。

「それは無理だ」

 注文した商品が順番に運ばれてくる。
 ガラス越しに微かな蝉の声、私たち以外客のいない閉鎖空間で、牛坐さんの言葉はよく通った。

「猫宮はあの場所から出られないからな」

 人は自分の知っている部分で判断する。
 見聞きする浅い知識で、勝手に決めつける。
 幸せそうな人が必ずしもそうとは限らないと、わかっていたはずなのに。
 猫宮さんが、自由だと疑わなかった。
 なんでもできて、どこにでも行ける。
 神様に選ばれた十二支たちと同じだと。
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