猫の罪深い料理店～迷子さんの拠り所～

碧野葉菜

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白昼の衝撃

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　それから猫宮さんにすべてを話した。
　父と母に親戚や友達、私を取り囲んできた人間関係に食育、教育。
　今まで誰にも言えなかった。
　自分の中で認めることさえできなくて、口に出すことを憚られた憤りの正体を。
　――お母さんは、私を愛していない。
　『あんたのために』
　愛情という嘘で固めた恩の呪縛。
　それを私は好意だと受け取り必死に努力した。
　否、そうするしかなかった。
　上手くいかなかった時、ヒステリックに卑下されるのも、私を成功者にするため、勝ち組にするため、幸せにするため……お母さんは仕方なくやっているんだと、思い込むしかなかった。
　私の名前の由来は千羽鶴。
　千羽の鶴を折れば願いが叶う。
　けれどそれは私ではなく、お母さんの願いを叶えるためのものだ。

　一頻り泣き終えた私は暖色の照明の下、カウンター席についていた。
　使いものにならないハイヒールが、椅子の足元に寄り添う。
　私をここまで導いてくれた綺麗な手は、一段高い檜板の向こう側に隠れている。

「……バカみたいですよね」

　ぽつり、嘆きと自嘲が漏れる。
　あの時、私は確かに思ったのだ。
　まりちゃんに、先に子供ができたと、旦那さんが普通の会社員だと、知った瞬間。
　――勝った、と。
　それが私の仄暗い希望の源だった。
　世間体や型式、学歴や職業にこだわる母のことだ。
　まりちゃんを貶し、私を褒め称えるに違いない。そう思って調子づいた。
　もうとっくに、私一人、置き去りにされていたとも知らず。

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