上 下
132 / 206
白昼の衝撃

32

しおりを挟む
「遠くにいて、来るまで時間が――ちづちゃんの気配に似てると思ったけど、まさか、本当に君だなんて――」

 前屈みになっていた猫宮さんは、息の弾みが落ち着くと、そのまま片膝を折って私と目線を合わせた。
 顔色も悪く、壊れたハイヒールで床にしゃがみ込んでいる。ひどく無様で、滑稽な姿。
 なのに猫宮さんは、そんな私に慈しみの眼差しをくれる。

 遠くって、この世界には店以外の場所があるのか、とか。
 いつもの作務衣じゃなくて、浴衣姿がまた素敵だとか。
 言いたいことも聞きたいこともたくさんあるはずなのに、蜂蜜色をしたガラス玉のような瞳に見つめられると、難しいこと、どうでもよくなってくる。

 背後の牛坐さんが「噂をすれば、だな」とつぶやけば、前方の秀馬さんが「ここでの行いは筒抜けだからな」と返す。それに犬斗くんが「こんな必死な宮さん初めてだ」と加えたが、みんなフィルターの外みたい、現実味もなくぼやける声。
 やがてそんな会話とともに、彼らの気配もすっと消えた。

「もうここには、僕以外誰もいないから」

 キラキラ光る、星屑のキャンディー。
 文字と文字を繋げただけで、こんなにも意味を成す。薄い唇が紡ぐ、宇宙的な癒しの言の葉。
 猫宮さんだけの魔法。

「大丈夫だよ」

 解放のスイッチを押された――いや、壊されたのかもしれない。
 それから私は、大声を上げて泣いた。
 今まで我慢していたものすべて、滝のように溢れ出して止まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

毎日記念日小説

百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。 窓側後方6つの机くらいのスペースにある。 クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。 それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。 話題は天の声から伝えられる。 外から見られることはない。 そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。 それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。 そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。 その内容を面白おかしく伝える小説である。 基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。 何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。 記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。 毎日が記念日!! 毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。 題材に沿っているとは限りません。 ただ、祝いの気持ちはあります。 記念日って面白いんですよ。 貴方も、もっと記念日に詳しくなりません? 一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。 ※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

照れ屋なオオカミといたずらヒツジ

ハルキ
キャラ文芸
オオカミ男である狼谷広樹(かみやひろき)とヒツジ娘である羊野陽華(ひつじのようか)の少し変わった高校生活。

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

元虐げられ料理人は、帝都の大学食堂で謎を解く

逢汲彼方
キャラ文芸
 両親がおらず貧乏暮らしを余儀なくされている少女ココ。しかも弟妹はまだ幼く、ココは家計を支えるため、町の料理店で朝から晩まで必死に働いていた。  そんなある日、ココは、偶然町に来ていた医者に能力を見出され、その医者の紹介で帝都にある大学食堂で働くことになる。  大学では、一癖も二癖もある学生たちの悩みを解決し、食堂の収益を上げ、大学の一大イベント、ハロウィーンパーティでは一躍注目を集めることに。  そして気づけば、大学を揺るがす大きな事件に巻き込まれていたのだった。

処理中です...