99 / 206
奇妙な仲間たち
62
しおりを挟む
「邪魔かなと思っただけだから、気に入ってくれたならそれも持っていて…………ここのお客様であるうちは」
最後の一文は細やかで聞き取れなかった。
なんと言ったのか、瞳で問いかける私に、猫宮さんは綺麗に微笑んだ。どこか寂し気な匂いを纏わせながら。
「……ありがとうございました」
――また来てください。
そう言わない、言えない理由が、今の私にはわかる気がした。
ここに来る人はみんな、なんらかの悩みを抱え、生きる道に迷っている。
その継続を願うようなこと、口にはできないのだ。
「……猫宮さん、私……また、来ます、必ず」
正しさは、わからない。
ただ言わずにはいられなくてこぼれ落ちた言葉を、猫宮さんはそっと笑顔で拾い上げてくれた。
「……待ってるね」
猫宮さんと揃いの鈴、金糸を揺らしながら引き戸を開き、暖簾をくぐる。
帰宅すれば殺風景なリビングに、一際目立つ煌めきを見つけた。
キッチン台、毎日のカロリー計算表の下、蜂蜜色に光る十センチ大の置き物。
右前足で招く形を取り、左前足に持った小判には「宮」の一文字。満面の笑みを讃える猫に首輪はなく、その代わり右耳に鈴がついていた。
「……これって、招き猫なんじゃ?」
初めての注文に、少し悩んでしまったのだろうか?
彼の想像と喜び、がんばりが詰まった記念日に、自然と口元が緩む。
十二支のはぐれ者、店主をもじった可愛い猫が我が家の仲間入りを果たした。
最後の一文は細やかで聞き取れなかった。
なんと言ったのか、瞳で問いかける私に、猫宮さんは綺麗に微笑んだ。どこか寂し気な匂いを纏わせながら。
「……ありがとうございました」
――また来てください。
そう言わない、言えない理由が、今の私にはわかる気がした。
ここに来る人はみんな、なんらかの悩みを抱え、生きる道に迷っている。
その継続を願うようなこと、口にはできないのだ。
「……猫宮さん、私……また、来ます、必ず」
正しさは、わからない。
ただ言わずにはいられなくてこぼれ落ちた言葉を、猫宮さんはそっと笑顔で拾い上げてくれた。
「……待ってるね」
猫宮さんと揃いの鈴、金糸を揺らしながら引き戸を開き、暖簾をくぐる。
帰宅すれば殺風景なリビングに、一際目立つ煌めきを見つけた。
キッチン台、毎日のカロリー計算表の下、蜂蜜色に光る十センチ大の置き物。
右前足で招く形を取り、左前足に持った小判には「宮」の一文字。満面の笑みを讃える猫に首輪はなく、その代わり右耳に鈴がついていた。
「……これって、招き猫なんじゃ?」
初めての注文に、少し悩んでしまったのだろうか?
彼の想像と喜び、がんばりが詰まった記念日に、自然と口元が緩む。
十二支のはぐれ者、店主をもじった可愛い猫が我が家の仲間入りを果たした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
転生したのに俺でした? 相棒は猫? 負け組人生からの脱出するやり直し人生⁈ 〜森猫外伝Ⅱ〜
猫寝 子猫
キャラ文芸
死んだと思ったら「一年前の俺」に戻っていた?
しかし、そこは元の「一年前の俺」では無かった?
突然の事に混乱している俺に話しかけてくる飼い猫?
これからコイツと協力して、前世での悲劇を回避してやる!
えっ?
俺が生き返ったのって、お前のお陰なの?
婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?
ぽんちゃん
BL
日本から異世界に落っこちた流星。
その時に助けてくれた美丈夫に、三年間片思いをしていた。
学園の卒業を目前に控え、商会を営む両親に頼み込み、婚活パーティーを開いてもらうことを決意した。
二十八でも独身のシュヴァリエ様に会うためだ。
お話出来るだけでも満足だと思っていたのに、カップル希望に流星の名前を書いてくれていて……!?
公爵家の嫡男であるシュヴァリエ様との身分差に悩む流星。
一方、シュヴァリエは、生涯独り身だと幼い頃より結婚は諦めていた。
大商会の美人で有名な息子であり、密かな想い人からのアプローチに、戸惑いの連続。
公爵夫人の座が欲しくて擦り寄って来ていると思っていたが、会話が噛み合わない。
天然なのだと思っていたが、なにかがおかしいと気付く。
容姿にコンプレックスを持つ人々が、異世界人に愛される物語。
女性は三割に満たない世界。
同性婚が当たり前。
美人な異世界人は妊娠できます。
ご都合主義。
新・八百万の学校
浅井 ことは
キャラ文芸
八百万の学校 其の弐とはまた違うお話となっております。
十七代目当主の17歳、佐野翔平と火の神様である火之迦具土神、そして翔平の家族が神様の教育?
ほんわか現代ファンタジー!
※こちらの作品の八百万の学校は、神様の学校 八百万ご指南いたしますとして、壱巻・弐巻が書籍として発売されております。
その続編と思っていただければと。
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
かちょもふっ~課長と始めるもふもふライフ~
恵喜 どうこ
キャラ文芸
俺、小宮山誠一郎はとある企業の課長職に就いている。そんな俺に部下である妹尾隆成は『バレンタインの贈り物』と言って、とんでもないものを手渡してきた。
箱の中にいたのはチョコレートではなく、白い毛のふわふわした小さなもの。
そう、子猫だった!
「俺のマンションは動物飼育は禁止だ」
「じゃあ、ここで育てましょう」
つぶらな目に根負けし、猫素人の俺がオフィスでもふもふを育てることになってしまったのだが、事はそれにとどまらず――
40歳独身、彼女なしの課長と天然系かわいい男子社員が送る愛に満ちた育成物語、いざ開幕。
※課長と始めるもふもふライフ、略して『かちょもふ』!
気軽にそう呼んでくださるとうれしいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる