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出会いの夜

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 見限られたのは大学受験を控えた高校三年の初夏。
 お母さんが希望していた日本一の国立大、その医学部に私の学力が達さないとわかった時、お母さんの態度は急変したのだ。
 そこまでベッタリだったのに、突然手を離された私は大学から一人暮らしをすることになった。

『早く出てけ』

 ――あ、まただ。
 鋭い視線と低い声が蘇る。
 ヘアタオルに収まりそびれた髪から滴る水が肩を濡らす。
 冷たい。さっきまであんなにあたたかかったのに。
 ――なんか、黒くなっちゃった。
 自分の身体を抱きしめながら、その場にうずくまる。
 水面みなもに反射する太陽光みたいに輝いていた記憶の目。
 大きく暗鬱な波に攫われ、いとも簡単に逆戻り。
 肩を抱く右手首、ぼやける視界に認めた輪っかを強く掴んで引っ張った。
 不思議な力で守られているかと思いきや、負荷がかかった金色の紐はあっさりちぎれて手首を離れる。
 分かれ目から飛んだ鈴が、悲しげに音を鳴らし脱衣所の床に転がり止まる。
 こんなもの持ってたって仕方ない。
 自分のプラスにならないものは捨てなきゃ。
 必要なもの以外は――。
 あれ……必要ってどういう意味だったっけ?
 ずっとずっと纏わりつく影。
 あの人と話すと、なにもできない幼な子に戻ってしまう。
 ――医者になれなかった私は、あなたの娘ではありませんか?
 重力に従いこぼれる雫が、やけに綺麗な床に染みを作っていた。
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