眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
102 / 175
輪が広がるのは嬉しいことです。

13

しおりを挟む
 残月のことを語る獄樹は真剣そのものだ。
 何かそこまで心酔するような経緯があったのだろうか?

「獄樹って本当に残月のことを尊敬してるのね」
「当たり前だ、下級あやかしだった俺の実力を認めて側近に拾い上げてくれたのはあの方だからな」

 それを聞いた夢穂は、なるほど、と納得した。
 どうやら残月は生まれに関係なく、価値を正しく認める総大将のようだ。

「獄樹は眠りのこととか、詳しく知ってたりするの?」

 それについては獄樹は首を横に振った。
 
「悪いが公にされてることしか知らねえよ、残月様は秘密主義ってわけじゃねえが、不確かなことや民の不安の種になるようなことは言わねえからな」
「そっか……八重太くん、眠りがなくなればいい、なんて言ってたから、何かわかればと思ったんだけど」

 喜んでいた他のあやかしたちとはまるで違う反応を見せた八重太に、夢穂の内にある疑問が膨らんだ。
 まるで眠りを壊したがっているような、そんな衝動を感じる言動。
 まさか、と思った夢穂の脳裏に、霊園の墓荒らしの光景が浮かんだ。

「あんな八重太を見たのはばあさんが亡くなった時以来だな」

 影雪は八重太の消えた場所を眺めながら、祖母を失い泣きじゃくっている彼の姿を思い出していた。

「よほどおばあちゃんが好きだったのね」
「八重太には父さん母さんがいないからな」
「えっ……じゃあ八重太くんは」
「ばあさんと住んでいた家に一人で暮らしている、食料は山や海で調達できるし、なんとでもなる、俺が八重太と出会ったのも、食い物を探していた時だった」

 子供が自分で食事を探さなければ生きられない状況は、夢穂の世界では考えにくかった。
 学校や社会の枠にはめられ守られるということがない分、危険とともに自由を得ているのだろうか。
 だからこそあやかしたちは逞しく、今を楽しもうと陽気に暮らしているのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...