63 / 175
眠りは世界を救う、のでしょうか?
20
しおりを挟む
これはどういう状態なのか、と困惑した夢穂がちらりと影雪を見る。
すると影雪は残月を見据えたまま、顔を顰めあからさまに嫌悪を示していた。
「大人しくしておれ、騒がしくするとつまみ出すぞ」
冷たく言われても、猫と犬のあやかしはにゃ~ん、わ~ん、と甘ったるい鳴き声で頷くだけだ。どうやらこれが普段通りで、すっかり慣れているらしい。
「なんだその顔は、まだ母の死を引きずっておるのか」
影雪の耳がぴくりと動く。
「母の死からすっかりヘソを曲げ放浪人のようになりよって、上級あやかしの誇りをも捨てたのかと獄樹が嘆いておるぞ」
影雪は両手拳に力を入れ、わなわなと震えた。
獄樹は何か思うところがある様子で影雪を一瞥しただけだったが、夢穂は驚いていた。
いつも穏やかな影雪が、怒っているところを初めて見たからだ。
声を荒げるようなことはなかったが、もしかしたら言葉にならなかったのかもしれない。
夢穂は影雪の静かな反抗の中に、葛藤も感じていた。
この城に住まず総大将である残月と確執がある影雪は、下々のあやかしたちには好かれても上級あやかしたちにはあまりよく思われていないようだ。
「獄樹、貴様はもう下がってよい」
「はっ」
残月に指示されると、獄樹は礼をし後ろに下がった。
帰り際、獄樹は影雪に何か言いたげな面持ちをしていたが、結局口を開くことはなく、上ってきた階段に消えていった。
「さてと……人間の娘を連れて来るとは、どのような了見か」
紫水晶のように魅惑的な瞳が、夢穂を誘うように見つめる。
緊張感が漂う中、ごくりと息を呑んだ夢穂がここに来た理由を話そうと口を開く。
しかし、その思いが声になる前に、残月が言葉で遮った。
「まどろっこしい説明は不要……近う寄れ」
くい、と内側に動く長い人差し指に促され、夢穂は一歩踏み出そうとした。
すると影雪は残月を見据えたまま、顔を顰めあからさまに嫌悪を示していた。
「大人しくしておれ、騒がしくするとつまみ出すぞ」
冷たく言われても、猫と犬のあやかしはにゃ~ん、わ~ん、と甘ったるい鳴き声で頷くだけだ。どうやらこれが普段通りで、すっかり慣れているらしい。
「なんだその顔は、まだ母の死を引きずっておるのか」
影雪の耳がぴくりと動く。
「母の死からすっかりヘソを曲げ放浪人のようになりよって、上級あやかしの誇りをも捨てたのかと獄樹が嘆いておるぞ」
影雪は両手拳に力を入れ、わなわなと震えた。
獄樹は何か思うところがある様子で影雪を一瞥しただけだったが、夢穂は驚いていた。
いつも穏やかな影雪が、怒っているところを初めて見たからだ。
声を荒げるようなことはなかったが、もしかしたら言葉にならなかったのかもしれない。
夢穂は影雪の静かな反抗の中に、葛藤も感じていた。
この城に住まず総大将である残月と確執がある影雪は、下々のあやかしたちには好かれても上級あやかしたちにはあまりよく思われていないようだ。
「獄樹、貴様はもう下がってよい」
「はっ」
残月に指示されると、獄樹は礼をし後ろに下がった。
帰り際、獄樹は影雪に何か言いたげな面持ちをしていたが、結局口を開くことはなく、上ってきた階段に消えていった。
「さてと……人間の娘を連れて来るとは、どのような了見か」
紫水晶のように魅惑的な瞳が、夢穂を誘うように見つめる。
緊張感が漂う中、ごくりと息を呑んだ夢穂がここに来た理由を話そうと口を開く。
しかし、その思いが声になる前に、残月が言葉で遮った。
「まどろっこしい説明は不要……近う寄れ」
くい、と内側に動く長い人差し指に促され、夢穂は一歩踏み出そうとした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
Strain:Cavity
Ak!La
キャラ文芸
生まれつき右目のない青年、ルチアーノ。
家族から虐げられる生活を送っていた、そんなある日。薄ら笑いの月夜に、窓から謎の白い男が転がり込んできた。
────それが、全てのはじまりだった。
Strain本編から30年前を舞台にしたスピンオフ、シリーズ4作目。
蛇たちと冥王の物語。
小説家になろうにて2023年1月より連載開始。不定期更新。
https://ncode.syosetu.com/n0074ib/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる