オサキ怪異相談所

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怪異戯曲

存在証明

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喜邏:私は、死に触れた
   だけど、結果はコレ
   天満くんが、天満くんだから
   私は此処にいるんですよ
   そういう話です


怪異戯曲・存在証明



ある一室でトレーニングをしている喜邏

叶芽:……凄い、ですね

喜邏:身体を鍛えろ、とは言いませんが
   損は無いという話です
   霊体相手にフィジカルで優位に立つというのは
   あまり現実的な話ではないですし
   天満くんと違って
   『完璧に触れることができる』訳ではありませんから

叶芽:じゃあ、どうして?

喜邏:取り憑かれた人
   つまり、対人用ですね

叶芽:なるほど
   それだったら触れることができるから!
   ……触れることができる……か

喜邏:それに、霊を組み伏せるなんて構図
   あまり見たことないでしょう?

叶芽:確かに
   やっぱり触れることができるのは
   稀なんですか?

天満:業界じゃ普通だろうな
   だが、見て、聞いて、触れて、話せる、はA級
   加えて、理解できる、でS級だな

叶芽:でた!変な階級制度!

天満:うるせーなB級以下

叶芽:……それは、ムカつく
   なんですか、理解できるって

喜邏:にんじん様が、どんな霊体か解りますか?
   情報が無い段階で、初めて目にして

叶芽:解らないですね
   あ、喜邏さん何か言ってましたよね?

喜邏:私の場合、理解はできないんですが
   この 百々目鬼どどめきの目の力で
   少しだけ見えるんですよ
   時々、この様なアイテムを使わずに
   霊体を理解し、分析し、対応したり
   または、協力関係を結んだりする方がいます

叶芽:凄い、ですね…?

天満:凄いどころの話じゃねーんだよ
   そんな奴はもう、人か怪異か解んねぇからな

叶芽:じゃあ、天満くんも理解はできないってこと?

天満:あぁ……多少は解るけどな
   喜邏が話したやつは、次元が違う
   ……ここにいる3人はな

叶芽:はい?

天満:それぞれ目的があるんだろうな

叶芽:私の探したい怪異のことですか?

天満:それも後で聞いてやる
   お前だけじゃなくて、俺にも喜邏にも目的がある
   それを共有するべきか

叶芽:話してくれるんですか?

喜邏:私は、天満くんが話せと言うなら

天満:じゃあ、道中話すか
   準備しろ、出るぞ

叶芽:あ、はい!


ーー道中


叶芽:準備って蔵面ぞうめんと目隠しですか
   普段はしてないのに

天満:あの家は安全だからな、それに
   喜邏から色々聞いただろ?俺のこと

叶芽:まぁ、少し

天満:気は遣わなくていいぞ
   別に後悔も何もないからな
   そういう星の元に生まれただけだ

叶芽:それで納得できることでも無いと思いますけど

天満:……目に宿る怪異がいる

叶芽:えっ?

天満:怪異譚の中でよく使われる人のモノは
   髪、血、遺体……それから目
   これを題材にしたものが多くある
   俺の物語はどうやら目らしい

叶芽:喜邏さんも目、ですもんね

喜邏:私は少し違いますけどね

天満:俺が同業と言う奴らの中には
   動物霊を使役する奴だったり、呪術を専門にした奴
   ただ霊感があるだけで力のない奴だったり
   と、ジャンルは様々いるんだが
   この同業の中で、話題になることがある

叶芽:話題、ですか

天満:何処かに全てを視て、理解する奴がいるらしい

叶芽:全てを見る?
   霊が見えるってわけじゃなくて?

喜邏:六道と言うのですが
   それら全ての世界を写す鏡みたいで
   これが見えるということは
   神すらも見える事になりますからね

叶芽:神!?いるんですか!?

天満:お前の想像している様な神じゃない
   土地神だったり、神格化された霊体だ
   ゼウスとかじゃねーからな

叶芽:なんですかね、この感じ
   神様がいるって分かって嬉しい様な
   けど、想像と違うなら残念というか
   なんでも望みを叶えるよ、みたいな神様
   いないんですかね……

喜邏:いますよ

叶芽:え!?いるんですか!?

喜邏:殆ど、代償を求めてきますけどね
   百万円欲しければ、相応の代償が降りかかる
   これぞまさに天の災いで、天災です

叶芽:ウッ…マジっすか……

天満:神頼みする奴は多くいるがな
   なんでもホイホイ叶える訳ないだろ
   神は気まぐれでもあるし
   行動理念が人と駆け離れすぎてるんだよ

叶芽:まぁ……神、ですからね

天満:話が逸れたが、俺は
   その六道の目を持った奴に会いたいんだよ

叶芽:それは、どうして?

天満:俺の目も生まれつきコレだ
   六道は写さないが、霊界を写す
   この人間界であれば、霊の全てを視る
   話しても理解できないだろうから
   深くは言わねぇけどな

叶芽:見えてる世界が違うんですね

天満:あぁ、そんな感じだ
   だから、六道に会って確かめたい
   その星の元、生まれたことについて
   何故、俺がこの目を持つのかについて
   俺は、誰なのかを知りたい

叶芽:……

天満:と、そういうことだ
   だが、これは運命に決めてもらう
   会う日があれば会うし、無ければそのまま死ぬ

叶芽:目的なのに会いに行かないんですか?

天満:あぁ、この業界お得意のやつだ
   こういうことは、勝手に決まる
   必要なら会えるさ

叶芽:そういうもの、なんですね

天満:で、お前は探したい怪異だったか?

叶芽:はい
   天満くんに言われた様に無視をし続けたんです
   でも、限界が来ておばあちゃんに話しました
   結果は、話したと思うんですけど
   おばあちゃんも霊感があって
   ある種、私を霊から遠ざけてくれていたみたいで

喜邏:少し対処法を知っていたのは気がかりですが
   経験があったのでしょうね

叶芽:それで、聞いたんです

天満:何をだ?

叶芽:私の両親は、怪異に殺されたって

喜邏:……

天満:へぇ、そりゃまた物騒な話だな

叶芽:正直、よく分からないんです
   両親が亡くなったのも物心付く前で
   復讐とかそういうものも

天満:探してどうする?

叶芽:交通事故だったんですけど
   飲酒や、薬も検出されてない
   見通しの悪い道でもない
   車の故障もない
   なので、結果は脇見運転になったそうで

喜邏:怪異、ですか

叶芽:おばあちゃんの話ではですけど

天満:違うな
   原因は怪異だろうが、裏があるな

叶芽:どうして?

天満:推測だが、無作為に取り憑き
   霊障を引き起こす怪異ってのは少ない
   怪異譚にしろ、何か原因が含まれる
   にんじん様の場合は、『夜に出歩く』
   ただ、運転しているだけなら
   其処等中で、交通事故祭りだ

叶芽:確かに……

喜邏:この件は続けて調査ですね
   怪異を操る手の者がいると

天満:あぁ、作る奴もいるらしいからな
   操作、逆に霊に取り憑くとかいう
   変人も出てきておかしくねぇな

叶芽:もし、人だったら……

天満:あぁ

叶芽:許せないかもしれないです

天満:……あぁ

叶芽:それで、喜邏さんの目的は

喜邏:来ますよ

叶芽:えっ?

天満:喜邏の話は、後でだ
   特に大した目的でもないからな

喜邏:ふふふ、そうですね

叶芽:あれは……一体、何ですか?

天満:依頼内容
   最近、家の近くでおかしなことが起こる
   捨てたはずの物が戻ったり、声が聞こえるが、近くには誰もいない
   気のせい、記憶違い、疲れからの幻聴
   まぁ、それもアリだが

喜邏:依頼が数件来ましたからね
   ほぼ確で霊の仕業と

叶芽:どんな霊なんですか?

喜邏:名無し
   人に対して悪戯をする程度の霊障
   霊障に対し、反応したモノを記憶
   その相手に何度も霊障を繰り返す
   地縛霊の一種
   対象は勘づいた人間
   依頼者のものと一致
   人型、緑、影
   認定、怪異『悪戯幽霊』

叶芽:なんだか、そんなに危険そうじゃないですね

天満:それは違うな

叶芽:違う?

天満:霊にずっと悩まされ続けてみろ
   精神異常になるぞ
   精神科に通う様になれば
   健康なのに無駄に薬の服用もしなきゃいけない
   副作用もあるし、睡眠障害も出れば
   最悪、自殺案件だ

叶芽:怪異が直接手を出すわけじゃなくて
   自分で追い詰めていく…?

喜邏:ホラー作品は、霊自体が直接手を出しますが
   現実では、こういう被害の方が多いですよ
   何も、殺すことが目的でないところが厄介
   疲弊するのも、自殺も
   本人の気持ちや意思ですからね

叶芽:ッ……

天満:直接的じゃなく、死へのサポート
   怪異ってのはこれで十分なんだよ
   だから、怖いんだ

叶芽:……はい!

天満:ははぁん、なるほどなァ
   原因はイジメ自殺か
   自分がやられて嫌だったから
   生きてる奴に嫌がらせしてんのか
   強気になったもんだなぁ?
   D級がよ

叶芽:その階級、どういう分け方なんですか……

喜邏:天満くんの実力で測りますから
   適当ですよ、適当

天満:ま、ちゃちゃっと除霊して終わりだ
   楯突くようなら、徹底的に虐めてやるよ

叶芽:いい人なのか、悪い人なのか分からない発言

天満:教訓その一

叶芽:はい?

天満:霊相手にビビんな、強気で行け
   基本中の基本、忘れんな
   喜邏、準備でもしとけ

喜邏:仰せのままに

天満:んじゃ、『御披露目』だ



叶芽:あの

喜邏:はい?

叶芽:凄く今更な質問なんですけど
   天満くんだけで良かったのでは?

喜邏:まぁ、あの姿を見ればそう思うでしょうし
   実際、以前も手出しは必要無かったですね

叶芽:実際、私も何か出来るわけではないですけど

喜邏:一つは、不測の事態に対応する為
   一つは、相性の悪い怪異の場合の保険

叶芽:そんなことあるんですか?

喜邏:天満くんは凄いです、とても
   だけど、怪異というものは
   人の範疇を超える存在ですから

叶芽:天満くんで無理な場合、対処出来るんですか?

喜邏:……ただ、死を待つより
   最期に少しは抵抗したい
   無理になる前に対処するのが一番ですけどね

叶芽:……抵抗、ですか

喜邏:あぁ見えて、調子に乗ることはないです
   何かやる時は、何か理由があります
   彼が死ぬのであれば、私も抵抗した後、死にます

叶芽:喜邏さんはなんでそこまで

喜邏:私の目的だからです

叶芽:目的?

喜邏:私はあなたが羨ましい
   妬ましく思う日が来るかもしれません

叶芽:いや!何で!?
   私なんか取り柄すらないのに!?

喜邏:私には霊感がありません

叶芽:……え?

喜邏:私は、死に触れた
   だけど、結果はコレ
   天満くんが、天満くんだから
   私は此処にいるんですよ
   そういう話です

叶芽:それってどういう…

喜邏:そして、天満くんはすこぶる耳が良い

天満:もう、そんな話してんのかよ
   ほら、実力差解っただろ?
   謝るなら楽な方法で逝かせてやるよ

霊の髪を引っ張り連れてくる天満

叶芽:……可哀想

天満:やったことの対価だ
   俺は霊に優しさなんか見せねぇからな
   可哀想だっていうのは、被害者に言えるか?

叶芽:……ごめんなさい

天満:その言葉を吐くなら、どちらにもそう言える時だけだ
   死して尚、悪さをするんなら
   ……俺は死んでも赦さない

天満の赤い目が異常に輝いたように叶芽には見えた
それは、霊も同じだったのだろうか
その言葉を聞いた瞬間、震え出した

喜邏:天満くん

天満:あぁ、『天赭てんしゃ

成仏したのか、赤い光になり霊体は消えた

叶芽:箱にしないんですか?

天満:あぁ、今回のは地縛霊だからな
   普通に除霊だ
   それと、喜邏の目的も聞けたな

叶芽:いや、よく分からないです
   霊感がないとか、死ぬとか

天満:霊感がないのに働きたいんだと
   とんだ変わり者が喜邏だ
   霊感がないのに霊に関わる
   それが、喜邏の

喜邏:罪滅ぼしですよ

叶芽:えっ?

天満:……言う必要あるのか?
   俺が気を遣ったのに

喜邏:数少ない、同志ですから

叶芽:私が?

喜邏:天満くんの目を綺麗と言ったのは
   私とあなたの二人だけ
   それだけで、十分価値がある

天満:そうかよ
   じゃあ俺は先に帰る

叶芽:は?えっ!ちょっと!

喜邏:ふふふ、恥ずかしいのかな
   じゃあ、二人で話しましょうか

叶芽:……はい



帰りの道中、二人

喜邏:私は天満くんが好きなんです

叶芽:……はい?

喜邏:安心してください
   別に恋愛という訳ではないので
   惚れてもらって構わないですよ

叶芽:ありえません!

喜邏:虐められていたことは話しましたね
   私と天満くんは幼馴染
   彼がずっと気味悪がられていたのは知っていました
   ……況してや私は、加害者側でした

叶芽:イジメの?

喜邏:傍観者も含まれるのであれば
   私は、天満くんを一度も守った事はない
   赤い目に霊が見えると話す男の子
   誰も近寄りませんし、手を出す人もいました
   だけど、彼は一度も学校に来なかったことはない
   彼が見ている世界は、多分違ったんでしょうね

叶芽:それを言わなきゃいいのに
   なんで天満くんは虐められていたのに
   それを言い続けたんだろう

喜邏:罪滅ぼしというは、そのことです

叶芽:そのこと?

喜邏:実は、私たちは似ています
   私の両親も怪異に殺されました
   違いがあるとすれば、死に触れた霊感の有無でしょうね

叶芽:怪異に殺された?
   その怪異は!?

喜邏:天満くんが祓いました
   彼が見ていた世界には日常的にいるモノたち
   どういう存在であるかをよく識っていた
   霊感があると言い続けたのは
   いつか、頼って欲しくて、です

叶芽:被害があるかもしれないと知っていたから虐められても言い続けた?
   そんなの、割に合わないっていうか
   え、じゃあ、天満くんは

喜邏:両親が殺された時、すぐに天満くんに言いました
   何が正解か解らない、何が起こったかすらも
   意味不明な私の説明を聞いて
   すぐに助けてくれたんです

叶芽:……

喜邏:かなり強い怪異で、霊感のない私すら見えてました
   いや、見せられているが正しい

叶芽:じゃあ、罪滅ぼしっていうのは
   何もできなかった自分を、守ってくれた天満くんを助ける為に?

喜邏:はい
   それから私は共にいます
   霊感が無いと解れば、これをくれました

叶芽:妖怪の目、ですね

喜邏:それだけじゃ力になれないと
   私の意思で手にも埋めました
   目隠しをしている間だけ
   私は霊を理解し、視ることができる

叶芽:そんな理由があったんですね

喜邏:だから、二人の様に立派な目的はないです
   私は、一生を賭けて罪を償い続ける

叶芽:だけど、それって……
   天満くんは望んでないんじゃないんですか?
   喜邏さんに普通に暮らしてほしいとか
   そこまでしてほしくないとか
   そういう風に思ってそうですけど

喜邏:えぇ、解っています
   ですが、それを理解した上で
   天満くんは、私という存在を側においていてくれている
   ふふふ、それでいいじゃないですか

叶芽:……
   (これは、私が立ち入る話じゃない…)
   わかりました、話してくれてありがとうございました

喜邏:こちらこそ
   聞いてくれてありがとうございます
   (ねぇ、天満くん……私は、これでいいよね)


ある過去


天満:喜邏

喜邏:喜邏?

天満:俺の目になるなら、それが名前
   明日から本格的に怪異関係に首突っ込むから偽名ね
   不満ある?

喜邏:仰せのままに

天満:やめろよ、それ
   別に恩に感じる必要もないし
   怒ってもないし、謝罪も贖罪もいらないって

喜邏:だけど、これは私の意思だから

天満:じゃあ、一つだけ

喜邏:何?

天満:俺より先に死ぬな

喜邏:……はい、絶対に
   これからは喜邏として天満くんと共に

天満:まぁ、一人よりマシか
   どうせ、俺もお前も独りだからな

喜邏:えぇ、そうですね

天満:慣れねぇな、ソレ

喜邏:慣れてください

天満:まぁ、ゆっくりな



現在


喜邏:(この名が消えない限り……私は、喜邏として)

叶芽:あ、お土産買って帰ります?
   あそこ、最近できたシュークリーム屋さん!

喜邏:……いいですね
   買いましょう



天満:叶芽の素質か
   あれは使えるかもな
   剣が増えるに越した事はない
   少し、考えてみるか

叶芽:戻りましたー

喜邏:お茶を用意しますね

天満:なんだ?

叶芽:お土産です!
   ……優しいところあるんですねぇ、天満くん

天満:余計な事まで喋ったか?
   まぁ、いい

叶芽:はい!シュークリームです!

天満:(まぁ、甘い甘い天国の後に
   少しばかり、地獄を見てもらうか)


怪異戯曲・存在証明 終
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