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第二章
第十六話 鏖
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鈴童:『……滑稽、だ』
『無様、滑稽、脆弱』
『人とは全て、塵に等しく、鏖だ』
オサキ怪異相談所 鏖
【間】
茜:今日はありがとう、凪
凪:大丈夫?
人の心の傷は、僕には理解できないけど
それでも、解るから
茜:うん、もう大丈夫だよ
あとは、私の問題かな
凪:……頼ってよね、ちゃんと
茜:カエルの霊の時は助けてくれなかったのに
凪:それは話が違うからね
早く帰ろう
茜:あ、そうだ
凪は何で私を助けてくれたの?
……あれ?凪?
尾先宅
凪:!?、???
尾先:凪!?お前、どうした?
何故か茜の側に居たはずの凪は、尾先の元へ飛ばされていた
しかし、すぐに状況を飲み込む
凪:オサキ……?
ッ!まさか!
オサキ!狐の位置把握してる!?
尾先:……玉藻と九十九以外は…
まさか……
凪:茜がヤバい!オサキ!
尾先:クソ!!
【間】
鈴童:りんりんりーん
鈴、可愛いでしょー?
茜:……誰?
鈴童:ねぇ?狐さんと一緒に居た?
ねぇ、私も一緒!
少女の影から狐が現れる
それは、雪よりも白く、神秘的な姿をしていた
茜:(それは、前触れなく訪れた
何故、どうして、このタイミングで
いや、そうだ…これは、そういうものだ
予定も、予測も、予定調和もいつも壊される
過程なんて意味がない
そんなもの、あったのかさえ曖昧になる
そこにあるのは、結果だけだ
あぁ、駄目だ、今は、駄目なんだ
多分……絶対……
確信に変わっていく……)
鈴童:どうしたの?怖いの?
怖くないよ!
ねぇ、アナタの狐さんは何処ー?
茜:(声を出さないと、誰でもいいから
呼べ、呼ぶんだ
じゃないと……)
鈴童:お話しよー?
私、鈴童!あなたの名前は?
茜:助けて……尾先……さん……
狐が独り、不気味に笑っている
茜:(残る結果は……鏖だ)
四月一日:なぁーんや、おもろいことやっとるな?茜ちゃん
茜:えっ……!?あなた…!
四月一日:わっ!覚えとってくれたん!?
そら嬉しいわぁ!
鈴童:また新しいお友達ー?
四月一日:ちびっ子、変なモン連れとるな
鈴童: 変じゃないよ!友達だもん!
四月一日:あー、そうかい、そうかい
……あれか
茜:どうして……ここに
四月一日:あぁ、狐憑きじゃなくて悪かったなァ
せやけど、今は信用してくれてええで
茜:ふざけないで!そんなことできるわけ!
四月一日:あんな、茜ちゃん
……俺は、尾先仁狐を殺したい
茜:ッ!?
四月一日:これは、絶対だ
誰にも邪魔も文句も言わせない
だから、信用しぃや
茜:意味が分からない……
四月一日:茜ちゃんってのはな?
アイツへの餌やねん
死なれたら困るー、言うやつや
今、此処でな
せやから、今此処では助けたる
鈴童:助ける?何で?
別にイタズラしないよー?
四月一日:それは、その狐に聞きや、ちびっ子
殺気漏れてんで
鈴童:白雪はそんなことしない!
四月一日:は?
鈴童:白雪を馬鹿にするな!
四月一日:おま……馬鹿か!?
名付けだと!?
鈴童:白雪は一人で寂しかったの!
だから、私が友達になったの!
茜:友達……?あの子、何が見えてるの……?
四月一日:逆だ、見えてない
それか、別のナニカか……
そうだな、確かに狐は化かし合いじゃ、トップクラスだ
茜:狐の霊って解ってない?
そもそもアレが理解できてない?
四月一日:……ちゃうな
霊とは解っているが、本質が見えてない
九尾やと解ってないんや
茜:九尾……
鈴童:うるさい、うるさい!
嫌な人には嫌なことする!!
四月一日:チッ!あかん!
"男は女に逢い女は男に行き会う事あり"
茜!手ぇ!
茜:ッッ!!
咄嗟に四月一日の手を取る茜
瞬間、鈴童の目から姿を消す
鈴童:えっ?なんで!?
いなくなった!?
【間】
四月一日:間一髪、やな
茜:今の……
四月一日:あぁ、狐憑きには見せたけど
まぁ、俺のヤツやな
にしても、全然読みが当たってへんな
茜:当たってない?
あれは九尾で尾先さんの仇……
四月一日:そうやない
なんも持たん女の子と思っとったけど、ちゃう
しっかり九尾の宿主や
殺る決めた瞬間、霊力が上がりよった
茜:しかも、名付けをしてた
あの感じ……怖い
四月一日:茜ちゃんも強うなっとるな
今回はマジの休戦や
こっちが争ったら死ぬで
茜:……はい
四月一日:今日ばっかりは、怪異屋おって欲しかったわ
肝心な時におらへんな
茜:……それは、どうなのかな
四月一日:あん?
茜:骸さんは、そういう感じじゃないっていうか
いや、多分……
四月一日:俺より付き合いは長いから、か
その違和感、当たっとるやろな
手を出さへんってことは、今は違うか
茜:だけど、このままだと
四月一日:死ぬな
なんもせぇへんかったら死ぬ
しゃーない、アレ使うか
茜:まだ何かあるってこと?
四月一日:あんまり情報渡したくないが仕方ない
居合わせた俺が悪いちゅーやつや
茜:(今、凪が近くにいないけど
私も少しは……)
手に意識を集中する茜
その手に少し熱さを感じ取った
茜:っ!私も少しはできる…かも
四月一日:なんや、少し教わったか
憑いとる狐はおらんみたいやな
注意を逸らす程度に期待しとくわ
茜:ッ!来た!
四月一日:……ふぅ、行くで
鈴童:いた
みーーーっけ!
茜:ヒッ…
四月一日:ビビるな!
殺されるぞ!
茜:は、はい!
鈴童:殺す?殺さないよ?
意地悪するから意地悪するだけだもん
四月一日:お前とソイツじゃ話が違うんや
友達なら意思の疎通やってくれや
鈴童:知らないくせに、指図するな!
……うん、解った!
『九重』
茜:空間が…歪んでる!?
四月一日:違う!霊力が溜まり始めた
大きすぎて歪んでる見えるだけだ
……あ、なるほど
茜:えっ?
四月一日:アイツ、全然解ってないな
こっちを雑魚と勘違いしとる
茜:どういうこと?
四月一日:茜、あの歪みに霊力当てれるか?
茜:やってみないと、分からない…
四月一日:やれ、失敗は許されんで
茜:ッ…
鈴童:『一本・日照雨』
四月一日:今や!やれ!
茜:当たって!!
茜が飛ばした霊力の塊が、集まった鈴童の歪みに吸い込まれる
しかし、何も起こらなかった
茜:失敗……?
四月一日:当たったら成功や!
馬鹿が!自分で取り込みおったな
鈴童:馬鹿って言った
赦さない!!行けー!!
歪んだ霊力の溜まりから細い針の様な霊力が降り注ぐ
四月一日:"夜道 遮るは壁 下薙ぎ払いて 姿消す"
その瞬間、見えない壁に針は遮られる
鈴童:えっ、何それ!?
四月一日:ヒミツや
鈴童の近くにいる白雪は、怪訝な顔を見せる
四月一日:ハハッ!一本取られたやろ?
もう用はないで
鈴童:どこ行くつもり!
茜:っ!?凪……?
近くにいる?
鈴童:逃がさない、逃がさない
二人ともお仕置きするんだ!
四月一日:"男は女に逢い女は男に行き会う事あり"
鈴童:あ!また消えた!なんで!!
……白雪?え?いいの?
うん……わかった……
そう言うと、鈴童と白雪は何処かへ消えていく
四月一日:なんとかやり過ごせたな
茜:はぁ…はぁ…さっきのは?
四月一日:茜ちゃんの霊力ちゅーもんは
あの狐と繋がっとるんやろ?
せやから、強い霊力にぶつけたんや
茜:どうして?
四月一日:所謂、位置情報を拡散してもらったんや
あれぐらい強いと拡散力も強いやろうから
賭けには勝ったな、近くに来とるやろ?
茜:そこまで……分かるんですか
四月一日:これは勘や
じゃ、俺も此処らで帰るわ
茜:待って!
私は……あなたを許さない
四月一日:それでええよ
けど、今此処で捕まえるのは無理やろ?
ハハッ、また今度な
茜:ッ!……グッ…ゲホッ…ゲホッ…
やっぱりこれ…かなり疲れる……
意識が……
凪:いた!茜!……オサキ!こっち!
倒れる茜を支える尾先
尾先:っ……大丈夫だ
一度、戻ろう
茜:な、ぎ…尾先…さん
尾先:いいから、寝てろ
行くぞ、凪
【間】
茜:うっ……ん
凪:気がついた!茜、大丈夫?
茜:凪……うん、大丈夫だよ
凪:よかった……
尾先:何があったか説明できるか?
茜:……はい
尾先:……気にするな
茜:えっ?
尾先:ある程度、俺も理解している
それに、俺も大丈夫だ…今は
茜:……話します
茜は凪が飛ばされてからのことを話す
尾先:……
茜:それで、助けてもらったと言うか……
凪:アイツ……絶対裏がある
何もなく助けるわけない
しかも近くにいたのもおかしい
尾先:あぁ、こちらも探ってはいる
骸が動いているのも知っているからな
だが、それは向こうも同じだろう
今回は偶々だろうが
茜:私、見張られてますか?
尾先:いや、ずっとじゃないだろうな
だが、何度か見られていたこともある
注意するに越したことはないが
それより……白雪、か
茜:はい、そう言ってました
尾先:俺の名付けの上書き
いや、違うかもしれないな
凪:違う?
尾先:廻門によって分裂した九尾
その一体が、大元であり、本体だ
俺たちは逃げたと思っていたが……
凪:もしかして、祓うことに成功していた?
尾先:それは無い
九尾の霊体は格が違いすぎる
確実に祓ったのなら、何かしら解る
だが、それに近い状態だったんだろう
茜:近い状態、ですか?
尾先:あぁ、逃げたと思っていたが
探知できないほどに弱っていた
だから、見つけられなかった、そして
回復するまで待つはずだったが、その
茜:鈴童って言ってました
尾先:その鈴童というやつに取り憑いた
そして、名を貰うことで存在力を戻そうとしている
凪:なんなんだ?その鈴童っての
九尾に取り憑かれた女って
普通、すぐに殺されるでしょ
茜:友達……そう言っていました
尾先:九尾を友達と呼び、力を使えた……か
俺は取り憑かれ、無意識で暴れた
奴が弱っていたとしてもあり得ない話だ
凪:その女、オサキより強いんじゃない?
尾先:凪、お前なら解るだろ?
九尾を正常のまま使役するということは
どういうことか、くらいな
凪:……仕方ないだろ、考えれないんだよ
意味が解らなすぎて
茜:……私、どうすればいいですか?
尾先:今回は様子見だろう
追ってなかったこともある
俺が九尾の気配が解るように
向こうも俺の気配が解るんだろう
一度、繋がっていたからな
凪:今までは感じなかったんでしょ?
尾先:あぁ、だが今の茜からは
アイツの気配を感じる
……コレを、忘れる筈がない…
とりあえず家まで送る
茜:あ、ありがとうございます
凪:……
【間】
鈴童:……何?
四月一日:いやぁ、あんたに用あるんちゃう
そっちのオトモダチの方や
鈴童:私、あなた嫌い
どっか行って!
四月一日:黙れよ、餓鬼
こっちもある程度、解ってるんだ
今此処で何ができるんだ?
鈴童:白雪!
四月一日:……
鈴童:……"許す"
四月一日:……へぇ、憑依もできるんだな
鈴童:『なんだ童?殺されたいのか?』
四月一日:それが出来ないから、わざわざ来たんだろ?
お前はまだ本調子じゃないし
今は時じゃない
鈴童:『試してみるか?』
四月一日:ハハッ!同じこと言われたなぁ
殺せるなら、さっき殺しただろ?
あんな子供騙し、九尾様とあろうものが
まさか本当に騙されたと?
鈴童:『やはり貴様は苛立つな』
『消えろ、次は殺す』
四月一日:じゃあ、そのまま……宣戦布告だ
鈴童:『何?』
四月一日:俺は尾先仁狐を殺したい
それは、お前もそうかもしれない
だが、それは赦さない
俺だ、俺の獲物だ
鈴童:『……ほう、まさかお前』
四月一日:それだけや、ほな
鈴童:『待て』
四月一日:あん?
鈴童:『私はお前が嫌いだ』
『それは、この子と一致している』
四月一日:狐に嫌われるんは、専売特許や
鈴童:『だが、私がお前を嫌うのは、その中身だ』
『厄介なものを入れているな』
『だからこそ、次は、無い』
四月一日:まぁ、どっちが先に仁狐殺せるか勝負やな
俺の中身については、勝手に嫌っといてもろて
そう言い、四月一日は闇に消えて行く
鈴童:『………ククッ』
『ククク、殺す?仁狐を?クククッ』
『殺すわけないだろう?私の……』
鈴童:『可愛い可愛い、子供なのだから』
【間】
誰かに電話をかける四月一日
四月一日:あー、命ちゃん?
あぁ、山本茜の監視は終わりにするわ
厄介なヤツと会ってなぁ
目的もある程度達成したからな
これくらいでええわ
それと、もう一つ
厄介なヤツが憑いとる
これ以上続ければ、こっちが逆に見られる
ま、そんなとこや、ほな戻るわ
電話を切る、四月一日
四月一日:……役者は揃いつつある
楽しみだよ、尾先仁狐
【間】
茜:凪……
凪:どうしたの?
茜:私は、何か助けられるのかな
凪:……九尾はね
茜:うん
凪:瑞獣と呼ばれていたんだ
茜:瑞獣?
凪:動物たちの長であり、特別な霊体
何も悪いものではないんだ
ただ、いつの日かその存在が穢れた
茜:それは、どうして?
凪:欲、だよ
九尾には色々な伝承がある
食べれば厄を祓うと言われていたりね
だから、人から狙われることもあった
それと、成り立ちのせい
茜:人から狙われたから、復讐をするために穢れたのかな
成り立ちっていうのは?
凪:瑞獣と言ったけど、以前は人喰いの怪物
それが、理由は解らないけど、瑞獣として
神格を持つ霊体になった
だが、またそれが穢れ、怪物、妖怪と呼ばれるようになった
茜:じゃあ今の九尾は、穢れてしまった妖怪
凪:オサキの一族を皆殺しにした、ずっと前からね
茜:……
凪:何を考えいるかなんて僕にも解らない
元々、普通の怪異と格も違いすぎる
たとえ、穢れ堕ちたとしても、九尾はそういう存在
九尾だけじゃないよ、妖怪にはそういうやつが存在する
茜:尚更、私にできることなんて……無いのかな
凪:何も九尾と戦わなくていいのに
茜は全部に関わって、全部を背負う言い方するけど
オサキは、それを望んで無い
茜:そ、れは…
凪:茜は、茜の出来ることがあるんだよ
キミが友達を救ったように
逆に救われたように
人にはそれぞれ、役割があるんだ
茜:私の役割は、なんだろう
いつも助けてもらってばかりで、何もできてない
凪:最近まで、普通の女の子だったのに
当たり前だよ
茜:……
凪:憑き物が取れたのに、そういうところは性格なの?
自分を犠牲にするのは駄目だよ、絶対
茜:そうだったね……うん
私に出来ることを、探すよ
凪:茜は強いよ
茜:え?
凪:だから、大丈夫
僕もいるしね
茜:うん!凪、ありがとう
【間】
尾先:あぁ、茜が先に出会った
廻門、頼む
骸には俺から伝える、あぁ
……意外にもな
俺が一番驚いている、そんなに焦ってない
なんだろうな、この感覚……
じゃあな、頼んだ
……二十年、か
【間】
ある何処かの場所、少女が一人
ベンチに座る男を見ていた
鈴童:りんりんりーん
鈴、可愛いでしょ?
男は不審がり、離れようとするが
狐の尾に捕まり、動けない
鈴童:なんで逃げるの?怖く無いよ?
ねぇ、何を怯えているの?
あ、お腹空いたんだね!食べていいよ!
その瞬間、男の身体を別の尾が貫く
影に潜んでいた狐は、それを喰らう
鈴童:……あ、れ、眠くなっちゃった
…………
ククッ、いい身体だ
未熟で未完
仁狐とは、また別の甘美
あぁ、今はまだ、今はまだ……
癒えぬ傷は、あと少し
待っていてくれ、私の可愛い子よ
人とは全て、塵に等しく、鏖だ
それまでは、存分に
鈴童:今の生を謳歌するといい
鏖 終
『無様、滑稽、脆弱』
『人とは全て、塵に等しく、鏖だ』
オサキ怪異相談所 鏖
【間】
茜:今日はありがとう、凪
凪:大丈夫?
人の心の傷は、僕には理解できないけど
それでも、解るから
茜:うん、もう大丈夫だよ
あとは、私の問題かな
凪:……頼ってよね、ちゃんと
茜:カエルの霊の時は助けてくれなかったのに
凪:それは話が違うからね
早く帰ろう
茜:あ、そうだ
凪は何で私を助けてくれたの?
……あれ?凪?
尾先宅
凪:!?、???
尾先:凪!?お前、どうした?
何故か茜の側に居たはずの凪は、尾先の元へ飛ばされていた
しかし、すぐに状況を飲み込む
凪:オサキ……?
ッ!まさか!
オサキ!狐の位置把握してる!?
尾先:……玉藻と九十九以外は…
まさか……
凪:茜がヤバい!オサキ!
尾先:クソ!!
【間】
鈴童:りんりんりーん
鈴、可愛いでしょー?
茜:……誰?
鈴童:ねぇ?狐さんと一緒に居た?
ねぇ、私も一緒!
少女の影から狐が現れる
それは、雪よりも白く、神秘的な姿をしていた
茜:(それは、前触れなく訪れた
何故、どうして、このタイミングで
いや、そうだ…これは、そういうものだ
予定も、予測も、予定調和もいつも壊される
過程なんて意味がない
そんなもの、あったのかさえ曖昧になる
そこにあるのは、結果だけだ
あぁ、駄目だ、今は、駄目なんだ
多分……絶対……
確信に変わっていく……)
鈴童:どうしたの?怖いの?
怖くないよ!
ねぇ、アナタの狐さんは何処ー?
茜:(声を出さないと、誰でもいいから
呼べ、呼ぶんだ
じゃないと……)
鈴童:お話しよー?
私、鈴童!あなたの名前は?
茜:助けて……尾先……さん……
狐が独り、不気味に笑っている
茜:(残る結果は……鏖だ)
四月一日:なぁーんや、おもろいことやっとるな?茜ちゃん
茜:えっ……!?あなた…!
四月一日:わっ!覚えとってくれたん!?
そら嬉しいわぁ!
鈴童:また新しいお友達ー?
四月一日:ちびっ子、変なモン連れとるな
鈴童: 変じゃないよ!友達だもん!
四月一日:あー、そうかい、そうかい
……あれか
茜:どうして……ここに
四月一日:あぁ、狐憑きじゃなくて悪かったなァ
せやけど、今は信用してくれてええで
茜:ふざけないで!そんなことできるわけ!
四月一日:あんな、茜ちゃん
……俺は、尾先仁狐を殺したい
茜:ッ!?
四月一日:これは、絶対だ
誰にも邪魔も文句も言わせない
だから、信用しぃや
茜:意味が分からない……
四月一日:茜ちゃんってのはな?
アイツへの餌やねん
死なれたら困るー、言うやつや
今、此処でな
せやから、今此処では助けたる
鈴童:助ける?何で?
別にイタズラしないよー?
四月一日:それは、その狐に聞きや、ちびっ子
殺気漏れてんで
鈴童:白雪はそんなことしない!
四月一日:は?
鈴童:白雪を馬鹿にするな!
四月一日:おま……馬鹿か!?
名付けだと!?
鈴童:白雪は一人で寂しかったの!
だから、私が友達になったの!
茜:友達……?あの子、何が見えてるの……?
四月一日:逆だ、見えてない
それか、別のナニカか……
そうだな、確かに狐は化かし合いじゃ、トップクラスだ
茜:狐の霊って解ってない?
そもそもアレが理解できてない?
四月一日:……ちゃうな
霊とは解っているが、本質が見えてない
九尾やと解ってないんや
茜:九尾……
鈴童:うるさい、うるさい!
嫌な人には嫌なことする!!
四月一日:チッ!あかん!
"男は女に逢い女は男に行き会う事あり"
茜!手ぇ!
茜:ッッ!!
咄嗟に四月一日の手を取る茜
瞬間、鈴童の目から姿を消す
鈴童:えっ?なんで!?
いなくなった!?
【間】
四月一日:間一髪、やな
茜:今の……
四月一日:あぁ、狐憑きには見せたけど
まぁ、俺のヤツやな
にしても、全然読みが当たってへんな
茜:当たってない?
あれは九尾で尾先さんの仇……
四月一日:そうやない
なんも持たん女の子と思っとったけど、ちゃう
しっかり九尾の宿主や
殺る決めた瞬間、霊力が上がりよった
茜:しかも、名付けをしてた
あの感じ……怖い
四月一日:茜ちゃんも強うなっとるな
今回はマジの休戦や
こっちが争ったら死ぬで
茜:……はい
四月一日:今日ばっかりは、怪異屋おって欲しかったわ
肝心な時におらへんな
茜:……それは、どうなのかな
四月一日:あん?
茜:骸さんは、そういう感じじゃないっていうか
いや、多分……
四月一日:俺より付き合いは長いから、か
その違和感、当たっとるやろな
手を出さへんってことは、今は違うか
茜:だけど、このままだと
四月一日:死ぬな
なんもせぇへんかったら死ぬ
しゃーない、アレ使うか
茜:まだ何かあるってこと?
四月一日:あんまり情報渡したくないが仕方ない
居合わせた俺が悪いちゅーやつや
茜:(今、凪が近くにいないけど
私も少しは……)
手に意識を集中する茜
その手に少し熱さを感じ取った
茜:っ!私も少しはできる…かも
四月一日:なんや、少し教わったか
憑いとる狐はおらんみたいやな
注意を逸らす程度に期待しとくわ
茜:ッ!来た!
四月一日:……ふぅ、行くで
鈴童:いた
みーーーっけ!
茜:ヒッ…
四月一日:ビビるな!
殺されるぞ!
茜:は、はい!
鈴童:殺す?殺さないよ?
意地悪するから意地悪するだけだもん
四月一日:お前とソイツじゃ話が違うんや
友達なら意思の疎通やってくれや
鈴童:知らないくせに、指図するな!
……うん、解った!
『九重』
茜:空間が…歪んでる!?
四月一日:違う!霊力が溜まり始めた
大きすぎて歪んでる見えるだけだ
……あ、なるほど
茜:えっ?
四月一日:アイツ、全然解ってないな
こっちを雑魚と勘違いしとる
茜:どういうこと?
四月一日:茜、あの歪みに霊力当てれるか?
茜:やってみないと、分からない…
四月一日:やれ、失敗は許されんで
茜:ッ…
鈴童:『一本・日照雨』
四月一日:今や!やれ!
茜:当たって!!
茜が飛ばした霊力の塊が、集まった鈴童の歪みに吸い込まれる
しかし、何も起こらなかった
茜:失敗……?
四月一日:当たったら成功や!
馬鹿が!自分で取り込みおったな
鈴童:馬鹿って言った
赦さない!!行けー!!
歪んだ霊力の溜まりから細い針の様な霊力が降り注ぐ
四月一日:"夜道 遮るは壁 下薙ぎ払いて 姿消す"
その瞬間、見えない壁に針は遮られる
鈴童:えっ、何それ!?
四月一日:ヒミツや
鈴童の近くにいる白雪は、怪訝な顔を見せる
四月一日:ハハッ!一本取られたやろ?
もう用はないで
鈴童:どこ行くつもり!
茜:っ!?凪……?
近くにいる?
鈴童:逃がさない、逃がさない
二人ともお仕置きするんだ!
四月一日:"男は女に逢い女は男に行き会う事あり"
鈴童:あ!また消えた!なんで!!
……白雪?え?いいの?
うん……わかった……
そう言うと、鈴童と白雪は何処かへ消えていく
四月一日:なんとかやり過ごせたな
茜:はぁ…はぁ…さっきのは?
四月一日:茜ちゃんの霊力ちゅーもんは
あの狐と繋がっとるんやろ?
せやから、強い霊力にぶつけたんや
茜:どうして?
四月一日:所謂、位置情報を拡散してもらったんや
あれぐらい強いと拡散力も強いやろうから
賭けには勝ったな、近くに来とるやろ?
茜:そこまで……分かるんですか
四月一日:これは勘や
じゃ、俺も此処らで帰るわ
茜:待って!
私は……あなたを許さない
四月一日:それでええよ
けど、今此処で捕まえるのは無理やろ?
ハハッ、また今度な
茜:ッ!……グッ…ゲホッ…ゲホッ…
やっぱりこれ…かなり疲れる……
意識が……
凪:いた!茜!……オサキ!こっち!
倒れる茜を支える尾先
尾先:っ……大丈夫だ
一度、戻ろう
茜:な、ぎ…尾先…さん
尾先:いいから、寝てろ
行くぞ、凪
【間】
茜:うっ……ん
凪:気がついた!茜、大丈夫?
茜:凪……うん、大丈夫だよ
凪:よかった……
尾先:何があったか説明できるか?
茜:……はい
尾先:……気にするな
茜:えっ?
尾先:ある程度、俺も理解している
それに、俺も大丈夫だ…今は
茜:……話します
茜は凪が飛ばされてからのことを話す
尾先:……
茜:それで、助けてもらったと言うか……
凪:アイツ……絶対裏がある
何もなく助けるわけない
しかも近くにいたのもおかしい
尾先:あぁ、こちらも探ってはいる
骸が動いているのも知っているからな
だが、それは向こうも同じだろう
今回は偶々だろうが
茜:私、見張られてますか?
尾先:いや、ずっとじゃないだろうな
だが、何度か見られていたこともある
注意するに越したことはないが
それより……白雪、か
茜:はい、そう言ってました
尾先:俺の名付けの上書き
いや、違うかもしれないな
凪:違う?
尾先:廻門によって分裂した九尾
その一体が、大元であり、本体だ
俺たちは逃げたと思っていたが……
凪:もしかして、祓うことに成功していた?
尾先:それは無い
九尾の霊体は格が違いすぎる
確実に祓ったのなら、何かしら解る
だが、それに近い状態だったんだろう
茜:近い状態、ですか?
尾先:あぁ、逃げたと思っていたが
探知できないほどに弱っていた
だから、見つけられなかった、そして
回復するまで待つはずだったが、その
茜:鈴童って言ってました
尾先:その鈴童というやつに取り憑いた
そして、名を貰うことで存在力を戻そうとしている
凪:なんなんだ?その鈴童っての
九尾に取り憑かれた女って
普通、すぐに殺されるでしょ
茜:友達……そう言っていました
尾先:九尾を友達と呼び、力を使えた……か
俺は取り憑かれ、無意識で暴れた
奴が弱っていたとしてもあり得ない話だ
凪:その女、オサキより強いんじゃない?
尾先:凪、お前なら解るだろ?
九尾を正常のまま使役するということは
どういうことか、くらいな
凪:……仕方ないだろ、考えれないんだよ
意味が解らなすぎて
茜:……私、どうすればいいですか?
尾先:今回は様子見だろう
追ってなかったこともある
俺が九尾の気配が解るように
向こうも俺の気配が解るんだろう
一度、繋がっていたからな
凪:今までは感じなかったんでしょ?
尾先:あぁ、だが今の茜からは
アイツの気配を感じる
……コレを、忘れる筈がない…
とりあえず家まで送る
茜:あ、ありがとうございます
凪:……
【間】
鈴童:……何?
四月一日:いやぁ、あんたに用あるんちゃう
そっちのオトモダチの方や
鈴童:私、あなた嫌い
どっか行って!
四月一日:黙れよ、餓鬼
こっちもある程度、解ってるんだ
今此処で何ができるんだ?
鈴童:白雪!
四月一日:……
鈴童:……"許す"
四月一日:……へぇ、憑依もできるんだな
鈴童:『なんだ童?殺されたいのか?』
四月一日:それが出来ないから、わざわざ来たんだろ?
お前はまだ本調子じゃないし
今は時じゃない
鈴童:『試してみるか?』
四月一日:ハハッ!同じこと言われたなぁ
殺せるなら、さっき殺しただろ?
あんな子供騙し、九尾様とあろうものが
まさか本当に騙されたと?
鈴童:『やはり貴様は苛立つな』
『消えろ、次は殺す』
四月一日:じゃあ、そのまま……宣戦布告だ
鈴童:『何?』
四月一日:俺は尾先仁狐を殺したい
それは、お前もそうかもしれない
だが、それは赦さない
俺だ、俺の獲物だ
鈴童:『……ほう、まさかお前』
四月一日:それだけや、ほな
鈴童:『待て』
四月一日:あん?
鈴童:『私はお前が嫌いだ』
『それは、この子と一致している』
四月一日:狐に嫌われるんは、専売特許や
鈴童:『だが、私がお前を嫌うのは、その中身だ』
『厄介なものを入れているな』
『だからこそ、次は、無い』
四月一日:まぁ、どっちが先に仁狐殺せるか勝負やな
俺の中身については、勝手に嫌っといてもろて
そう言い、四月一日は闇に消えて行く
鈴童:『………ククッ』
『ククク、殺す?仁狐を?クククッ』
『殺すわけないだろう?私の……』
鈴童:『可愛い可愛い、子供なのだから』
【間】
誰かに電話をかける四月一日
四月一日:あー、命ちゃん?
あぁ、山本茜の監視は終わりにするわ
厄介なヤツと会ってなぁ
目的もある程度達成したからな
これくらいでええわ
それと、もう一つ
厄介なヤツが憑いとる
これ以上続ければ、こっちが逆に見られる
ま、そんなとこや、ほな戻るわ
電話を切る、四月一日
四月一日:……役者は揃いつつある
楽しみだよ、尾先仁狐
【間】
茜:凪……
凪:どうしたの?
茜:私は、何か助けられるのかな
凪:……九尾はね
茜:うん
凪:瑞獣と呼ばれていたんだ
茜:瑞獣?
凪:動物たちの長であり、特別な霊体
何も悪いものではないんだ
ただ、いつの日かその存在が穢れた
茜:それは、どうして?
凪:欲、だよ
九尾には色々な伝承がある
食べれば厄を祓うと言われていたりね
だから、人から狙われることもあった
それと、成り立ちのせい
茜:人から狙われたから、復讐をするために穢れたのかな
成り立ちっていうのは?
凪:瑞獣と言ったけど、以前は人喰いの怪物
それが、理由は解らないけど、瑞獣として
神格を持つ霊体になった
だが、またそれが穢れ、怪物、妖怪と呼ばれるようになった
茜:じゃあ今の九尾は、穢れてしまった妖怪
凪:オサキの一族を皆殺しにした、ずっと前からね
茜:……
凪:何を考えいるかなんて僕にも解らない
元々、普通の怪異と格も違いすぎる
たとえ、穢れ堕ちたとしても、九尾はそういう存在
九尾だけじゃないよ、妖怪にはそういうやつが存在する
茜:尚更、私にできることなんて……無いのかな
凪:何も九尾と戦わなくていいのに
茜は全部に関わって、全部を背負う言い方するけど
オサキは、それを望んで無い
茜:そ、れは…
凪:茜は、茜の出来ることがあるんだよ
キミが友達を救ったように
逆に救われたように
人にはそれぞれ、役割があるんだ
茜:私の役割は、なんだろう
いつも助けてもらってばかりで、何もできてない
凪:最近まで、普通の女の子だったのに
当たり前だよ
茜:……
凪:憑き物が取れたのに、そういうところは性格なの?
自分を犠牲にするのは駄目だよ、絶対
茜:そうだったね……うん
私に出来ることを、探すよ
凪:茜は強いよ
茜:え?
凪:だから、大丈夫
僕もいるしね
茜:うん!凪、ありがとう
【間】
尾先:あぁ、茜が先に出会った
廻門、頼む
骸には俺から伝える、あぁ
……意外にもな
俺が一番驚いている、そんなに焦ってない
なんだろうな、この感覚……
じゃあな、頼んだ
……二十年、か
【間】
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ベンチに座る男を見ていた
鈴童:りんりんりーん
鈴、可愛いでしょ?
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狐の尾に捕まり、動けない
鈴童:なんで逃げるの?怖く無いよ?
ねぇ、何を怯えているの?
あ、お腹空いたんだね!食べていいよ!
その瞬間、男の身体を別の尾が貫く
影に潜んでいた狐は、それを喰らう
鈴童:……あ、れ、眠くなっちゃった
…………
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未熟で未完
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あぁ、今はまだ、今はまだ……
癒えぬ傷は、あと少し
待っていてくれ、私の可愛い子よ
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