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43.僕のブレア

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「キーリー、君に会いたがっている人がいるんだけど。」

ある日の夕方、ウィリアムさんの執務室に呼び出された僕はその言葉にどう反応したらいいのか分からなかった。

「⋯⋯ええと、誰、ですか?」

漸く口から出た言葉はこれだった。

僕に会いたい人?全く検討もつかない。最近街に行ったし向こうが勝手に会いたがっていて僕が全く知らない人っていうのも有り得る話だよね。

知らない人の名前だったら嫌だって拒否してもいいよね。

「君の実父だと名乗る人で、名前をバンズと名乗ったよ。心当たりある?」

「⋯⋯いえ、全く。僕の実の実父だとして今更なんの用だろうって思います。」

予想もしなかった返答に少し直ぐに反応が出来なかった。そもそも僕は実父の名前なんて知らない。僕の耳が欠けるまでの短いお付き合いだもの。顔も声も覚えてないもの。っていうか生きてたんだ。正直どこかで野垂れ死にしてるかと思ってた。

「なんかね、街でキーリーの事を見かけて、自分の息子だって思ったらしいよ。それで、会うことが可能なら色々謝りたいって言ってるそうだ。」

謝る?って一体何を?僕の耳の事?それとも置いていった事?何一つ連絡をよこさなかった事?

「⋯⋯正直なところを言うと、謝ってもらうことなんて何一つありません。」

別に何とも思ってないし、謝られたからって過去の何かが変わる訳でもないし、父親なんて居ないのが当たり前だったから今更現れても困るし。
僕から実父に話す事なんて、何も無い。

「⋯⋯それ、お断り出来ますか?僕は会いたくないです。」

「うん、分かった。ではそう伝えるよ。」




⋯⋯それで、この話は終わったと思ったんだよね。



僕自身の心の靄々も時間と共に消えていくと思ってた。正直、ウィリアムさんから話があるまで実父の事なんか忘れてた、死んでるとさえ思ってた位だ。

ただどうやら僕の実父は諦めが悪いらしい。
何度も僕に会わせてくれと毎日邸を訪れてるらしい。

え?来てるの?毎日?すぐそこまで?我が実父ながらしつこいと思う。せめて3回目位でで諦めて欲しかった。

もし仮に、1回会ってしまえば終わるのかと思うと、毎回対応して下さっているウィリアムさんを始めとした方々に申し訳ない。いや、そもそも1回会ったら調子に乗ってどんどん来るんじゃない?そうなったらそうなったらで更に申し訳ないし。僕はどうでたら良いんだろう?

「うーん、どうしたら良いんだろう。」

ぽつりと口から零れてしまった。

最近この事で悩み過ぎてなんだかスッキリしない。いい加減邸に来るの諦めて欲しいんだけど、本人に会いたくないから伝えられないし、ウィリアムさんは「気にしなくていいよ」って言うけど、そういう訳にもいかないし、もう!もうもう!なんだか苛々してきた!僕牛になっちゃうよ!?

「尻尾の動きが凄いぞ、キーリー」

席を外していたブレアがいつの間にか戻って来ていた。僕の尻尾が大きくビターン!ビターン!と座っているソファを叩いてる姿を見られてしまって、ブレアはクスクス笑っている。

「その原因は親父さんの事か?」
「⋯⋯うん。皆に迷惑かけてるのがすごく申し訳なくて。もう来ないで欲しい。消えて欲しい、ん、消えてっていうのはこの領地から居なくなってって事。」
「ははは。じゃあ川に流すか!」
「そういう意味じゃないってば!ブレアが言うと洒落にならない。笑いながら言うから悪魔大魔王じゃん。」
「どの本の影響だ?」
「んもう!」

ブレアにクッションを投げるがぽふっと軽くキャッチされてしまった。そのまま僕の隣にどかりと腰を下ろして、紅茶に手を付け始めた。
少し茶化された感はあるけども、でも、こうやって話す事で気持ちが軽くなったのは確かだ。

こういう所好きだなぁ、顔もかっこいいし、うん、かっこいい。素敵な横顔だ。

眺めていたら構ってもらいたくなった僕はいそいそと、今では定位置になりつつあるブレアの膝の上に移動する。向かい合ってちゅっとキスをすると仄かに紅茶のいい香りが漂う。

「ふふ、紅茶の香りがする。」
「今、飲んだばかりだからな。」

ブレアの肩や首筋にスリスリと甘えればおでこにちゅっとキスが帰ってくる。それが嬉しくて何度も何度もスリスリする。
僕は幼少期に愛着形成がうまく出来なかったお陰で喉をゴロゴロ鳴らすことが出来ない。あれはどうやって鳴らしてるんだろうね?
でも匂い付けと言うのは耳の右下近りの臭腺をスリスリ擦り付けるということは知っているから、見様見真似でやる。あと単純にここを好きな人に擦り付けるの気持ちいい、満足感がある。僕の匂いを付けて僕のもの!っていう行動だから独占欲が満たされてるって事なのかな。

スリスリ。
ちゅっちゅ。

何度も繰り返すそれは気持ちいいけど、だんだんそれだけじゃ物足りなくなって来てしまう。

もっと刺激が欲しい僕は、ずいっと膝立ちしてブレアの唇に僕の唇を重ねた。

「ん、んぅ、っん」

直ぐに僕の唇を割って、ブレアの舌が僕の舌と絡まり合う。唾液が混ざりあって、くちゅくちゅと厭らしい音が耳に響く。
僕の腰に添えてあったブレアの手は、シャツの下に潜り込み、下から上へと僕の素肌を撫でて行く。撫でられた所からじんわりと熱を持って緩く、優しく快感を生んでいった。でも、触られたところ以外も勝手に熱を持ち始める。

お腹の中が熱い、なんかじんじんする。

その熱はどんどん大きくなっていき、僕の思考をぼんやりさせてくる。
でも僕はもうこの症状がなんなのか知っている。どうやったら満足できるかも覚えてしまった。

「ね、ブレア。しよ?いっぱいして?僕のこと沢山鳴かせて?」

「っ、仰せのままに。」

我慢が出来ない僕が強請ると、ブレアの瞳がギラリと、獲物を捉える目に変わった。


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