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40.僕にストレスは無縁なのだ

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僕は今とてつもなく悩んでいる。

いや、やってはいけない事だとはちゃんと理解してはいるんだ。でも、理解していたってどうしてもやりたくなる事はある。体がうずうずしてしまってしょうがないんだ。尻尾も落ち着きなくゆらゆら揺れているのを感じている。

それに僕は何度も自分の欲望に蓋をしてここを通り過ぎていたんだ。でも、僕以外に誰も居ない今、欲望が、やってしまえと僕を誘っている。

ごくり。

唾を飲み込み、左右を見渡して誰も居ないことを目視で確認して、更に耳を澄ます。うん、近くに人は誰も居ない。

今がその時だ。大丈夫、すぐ終わらせれば誰にも気づかれないはず。それくらい僕には出来る。この衝動を、欲望を今すぐどうにかしたい!

僕は、目の前の大きな幹に右手をかけて体重を持ち上げた。

うん、体重増えても、筋肉も付いてるからむしろ今の方が体が軽く感じる。正直言って余裕だ。

次は右足をかけ左手を伸ばす、今度は左足をかけて右腕を伸ばして、ひょいひょいっと登っていく。大きい幹を選んで少し休憩。

うわー、久しぶりにこんな高い所登ったなぁ!気持ちがいい!まだ近くに人は居ないみたいだし、もう少し登ってみようかな。

次の休憩できそうな幹までひょいひょいっと登って行った。

ふふん、僕もまだまだ登れるぞ!
上までは登っていないけど達成感で心は満たされた。満足いくまで登ったから誰か来る前に降りないと!

今度は登った時と逆で、少しずつ下に足と手を伸ばし、登った時より多く幹を使って降りていく。
僕の身長の倍くらいの高さになったらぴょんっとジャンプしてすたっと着地する。うん、完璧!

「わ、凄い身軽だね!」

着地した途端、ウィリアムさんの声が届いた。

あれ?近くに人は居なかったはずなんだけど。

「えへへへ。」

とりあえず最後のジャンプしか見られてないよね、と思って笑ってやり過ごそうとしたんだけど。

「よくあそこまで登れるよね~。いやぁ、若いって凄いなぁ。」

全部見られてた。なんて事だ。

「あ、僕、ブレアの所に行かなくちゃいけないんだった。」
「そうなの?時間に余裕があるのかと思ったよ。俺もブレアに用があるから一緒に行こっか。」
「あ、はい。」

⋯⋯ウィリアムさんには全部お見通しみたいだ。






「キーリー、お前は何をやっているんだ。」

ブレアが頭を抱えて執務机に項垂れてしまった。

そう、実は特に用もなかった僕はウィリアムさんがくすくす笑いながら僕の所業を全てブレアにバラすのを只々見てるしか無かった。

⋯⋯木登りって頭抱えるまでの事かな?

「えーと、実はもっと登れるよ?」
「本当!?キーリー、凄いね、ぜひ今度見せて!」
「僕で良ければ何時でも大丈夫です!」

「ちょっと兄上は黙ってて。」

あれ、ブレアが益々項垂れてしまった。

「くくくっ、ブレア偶には何処か連れて行ってあげたらどうかな?本人は気付いてないかもしれないけれどストレス溜まってるんじゃない?この間のネコジャラシ事件もそうだけどさぁ。」

え、あれ事件だったの!?
いやいやそんな事よりもどこか連れて行ってくれるの!?

「はいっ!じゃあ僕は森に」
「森には行かない。」

ピシッと手を挙げて希望を言おうとしたら言い終わる前にブレアは被せて「行かない」と却下して来た。それに僕は納得がいかない。せめて森の素晴らしさを伝えなければ。

「なんで、、、森はワンダーランドなのに。」

「ワンダーランドなの?」
「ワンダーランドでは無いだろう。」

「だってだって、木には登り放題だし、なんなら飛び移り放題だし、お腹すいたら小動物狩って、穴見つけたら入って遊んで、森にしか生えてない植物もあるし、それにそれに、えっと、絶対に一日中遊び倒せるんだから。兎に角森はワンダーランド。そこは夢の国。」

「キーリーはアウトドア派だね。」

「そうなのかな?でも、ブレアとまったりするのも好きだし、気持ちいいソファでブレアとゴロゴロするのも好きだし、ブレアとお仕事するのも好きだし、ブレアと本を読むのも好きだし、お家の中も好きですよ?」

「ん、ブレアの事が大好きなんだね。良かったねブレア。」

そうだよ。ブレアの事大好きだよ?一時期ブレアとそういう事するのが好きなのかと思ったけど、ブレアじゃないと嫌だし、ブレアと一緒にいるのが好きって事はブレアの事が好きって事かなと落ち着いた。

「ちょっと、兄上は黙ってて。キーリー、森に行ったとして私には調子に乗って登りすぎて降りられなくなったキーリーしか想像出来ないんだ。」

「なっ!そんな、事は、なぃ。」

いや、あるかも知れない。僕は街で1位2位を争うほど木登りが上手だった。コツは下を見ないこと。そうなると気がついたら結構高い所まで登っていて、怖くなっちゃって降りれなくなることがあって、兵士のお兄ちゃん達に助けて貰う事があったなぁ。

⋯⋯っていうか助けて貰うことが殆どだったかも知れない。

兵士のお兄ちゃんは訓練で木登りもしてたから、今よりも小さかった僕を抱えて降りる事も難なく出来たけど、ブレアはそもそも子供時代に木登り自体をあまりして無さそう。って事はブレアも登ったは良いが降りれなくなりそう。登るのと降りるのって結構違うんだよね。って事は結局2人共降りれなくなっちゃって、騎士の皆も訓練で木登りなんてして無さそうだから僕達と同じ羽目になっちゃって。皆登って皆降りられなくなっちゃうね?それはとても大変だ。

「あ、うん。僕も森はいいかなって思ってきた。」

「ふっく、くくっ、キーリーは面白いね。じゃあ街に行ったらどうかな?」

「街!?はいはいはい!行ってみたい!ブレア街に連れて行って!」

「ん?行って"みたい"??」

「はいっ!行ったこと無いので行きたいです!」

「ちょっとブレア、キーリー来てからもう3ヶ月は経つでしょ?なんで街に行ったこと無いの?」

「いや、その、仕事で集落になら連れていった事が、」
「それは仕事だろ!?そういうんじゃ無いのはわかるだろ、はぁ、あのなぁ、可愛くて囲っておきたい出したくないって気持ちも分からなくは無いけどさぁ、」

何故だかウィリアムさんのお説教が始まってしまった。そんなことよりも僕は初めての街に気持ちが浮き足立つ。

街ってどんな所だろう?賑やかなお店のある通りとか連れていってくれるのかな?どんなお店があるんだろう?何売ってるんだろう?美味しい食べ物屋さんとかあるのかな?

早く行きたいなー!
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