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36.ぽかぽか

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冬のある日、流石温暖な気候と言われるだけある。日差しはぽかぽか、体を冷やすような北風はなく、外でも日向なら暖かくて眠くなってしまうほどだ。

「これが本当に冬~?」

僕の知ってる冬は、体を凍えさせる北風が吹き、太陽の日差しは体を温めるほどのものは無く、時には雪が降って街全体を冷やし、皆で集まって凍えないように暖をとって、春をまだかまだかと待ち侘びるような冬しか知らない。

その場所から馬車でかっぽかっぽとおよそ1日でたどり着いた場所はこんなにも気候が違うものなのか。

「お外なのにお昼寝が出来ちゃう暖かさだよ」

日向であればの話だけどね。日陰だとさすがに空気が冷えて寒く感じる。

庭園の噴水近くのベンチに座っていた僕は、ぽかぽかと暖かい陽気に眠くなってきてしまっていた。

「あら、キーリー。こんな所で寝てはダメよ」

声を掛けられて顔を上げると、そこにはウィリアムさんとオリヴィアさんが居た。

「寝てないです、寝てないです」

「本当に~?」

必死に繕ってみたけど、うとうとしていたのはバレてるらしい。くすくすとオリヴィアさんに笑われてしまう。
⋯⋯うん、本当は気持ちよすぎて寝ようとしてました、僕は誘惑に弱いのです。

オリヴィアさんは素敵なお姉さんだ。実際に僕のお義姉さんであるわけなんだけども。常識外れな僕を懇切丁寧に導いてくれる。オリヴィアさんから見て常識外れなこと言っても大方微笑んで済ましてくれるし、訳も分からず怒鳴ったりしないし、物投げてストレス発散もしない。最初は女の人と言うだけで実母と被せて勝手にビクビクしてしまったけど、今考えれば似ても似つかないのに失礼な事したなぁと思う。
⋯⋯最初っから枠にはめて見ちゃダメだねぇ。

出そうになる欠伸を必死で噛み殺して、まだ眠くて活動を拒否する頭でのんびりとそんな事を思った。

「キーリー君、これ間違いがないか確認して欲しいんだけど」

とウィリアムさんから渡されたのは僕の名前から誕生日、出身地などが詳細に記された用紙だった。

「ぼ、僕の個人情報というものですか!?」

わー、すごい。僕の知らない僕の情報がてんこ盛り!へー、あの街の名前ってこんなだったんだー、国境の門って名前があったんだ知らなかった!あのお邸ってそんな所にあったんだーへー。

⋯⋯⋯。

「多分、大丈夫だと思います。」

僕の情報なのに僕が分からない知らない事ばっかしだ。
それをにへらっと誤魔化してそのまま紙をウィリアムさんに返す。ウィリアムさんは「確認ありがとう」って受け取ってくれたけど、多分、僕の誤魔化した気持ちがバレてるような気がする。

「そういえば、なんでウィリアムさんとお義父さんは僕の事君付け何ですか?」

僕が勝手に感じた気まずい気持ちを切り替える為に、今まで疑問に思ってた事を聞いてみた。だってオリヴィアさんは呼び捨てだもの、僕も今まで周りから呼び捨てだったらからその方がなんかいい。

「俺もね、もぅ家族なんだから呼び捨てにしたいんだけどね~」
「⋯⋯家族。」

ウィリアムさんに"家族"と言ってもらって心がぽかぽか温まる。"家族"って思ってもらえて嬉しい。んへへ、"家族"かぁ~。知らずに顔がにやにやと緩んでしまう。

「私は女だからいいけど、ブレアがねぇ、そりゃもう独占欲丸出しで!ふふふふっ」
「別にとったりなんかしねぇっての。あいつも困った弟だよ、本当に。」

2人ともブレアの事を仕方の無い困った子みたいに扱うのが新鮮で面白い。お二人からしたらブレアもただの弟だもんね。と先程とは違う意味で顔がにまにましてくる。

「いや、お前も困った義弟おとうとだぞ、キーリー。」

僕の反応を見たウィリアムさんは、そう言ってブレアよりも大きな手で僕の頭をぽんぽん撫でてくる。その撫で方はブレアにそっくりで、心がほわほわする。

「え、僕困らせてます!?」

何も記憶にございませんけれど!?とウィリアムさんの顔を見るとやれやれとそれはそれは演技っぽく、

「誕生日8日も早める奴なんて初めて出会ったよ」

と大袈裟な溜息の後ニヤリと言われてしまった。そーのーこーとーかー!

「あら、他にも結構ビックリ発言してるわよ?この前の脱走もすごく面白かったわ。ブレアはそれどころじゃなかったけれど。」

「あ、あー。大変申し訳ありません。」

脱走の件は記憶に新しいけれど他にも色々やらかしてたみたい。オリヴィアさんは楽しんでるみたいだけれど、ぺこりと僕は2人に頭をさげた。でもブレアも僕の脱走の後楽しそうに僕を風呂に入れてたけどね。

「まぁ育ってきた環境が違うから仕方ないんだけどね」

とまたウィリアムさんに頭をぽんぽんされた。

こうやって否定しないで居てくれる所すごく好き。皆、僕の言動に最初はびっくりするけど最後は笑って済ませてくれる所が大好き。僕も周りの様子を見ながらビックリ言動は抑えなくちゃとは思うんだけど、興奮したり焦っちゃうと難しいんだよね。そもそも何がビックリ言動なのかいまいち分かんないし。

ふふふ、でもそっか。"家族"って"義弟"って思ってくれてるんだ。
それだけで心がぽかぽか温かい。
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