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19.こわい!

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「儂の大事な息子を誑かしたのは貴様か。」

ブレアに連れられて、お義父さまとお義兄さま、そのお嫁さんのお義姉様のお帰りを出迎えて、初めて会ったお義父さまに言われた言葉がこれだった。

僕はこの言葉とブレアと同じような厚みのある立派な体格で見定めるような鋭い視線にビビりあがってしまって尻尾が今までにないほど縮んで丸まってしまった。

たぶ、誑かす!!?
そんな事は決してしてません、何かの間違いです!と言いたかったのに、ビビってしまって声が出ない。魚のように口をただパクパクさせていただけだった。

「耳が、欠けておるな。」

「ひっ、す、すみっ、すみません。」

やっぱり耳が欠けた不完全なネコはダメ、なんだ…。今の一言って絶対そういう事だ…。

あ、やば。泣きそう…。
ここで泣いたら絶対駄目なのに。

「父上、私の嫁を揶揄うのやめて頂きたいんですが。」

「まぁまぁ、ご挨拶だろうて。ってありゃ?」

「私の嫁は父上と違って真面目なんです。まったく。」

やばい、どうしよ、泣いたらダメ、ぐっと堪えて、でも絶対良い印象は無い、どうしよ、どうしよ、という考えで頭が一杯で、僕はこの会話が耳に入っていなかった。

「まぁ、昼食でも食いに行くかの。」

とお義父さまは食堂へ向かってしまって、僕の気持ちはまたずぅぅんと更に落ち込んでしまった。

「あー、親父の冗談なんだ、親父、人を揶揄うのが好きで。」
「私も来た時は散々に言われたわ。後で冗談だって分かったけども。」

お義兄さまのウィリアムさんとお義姉さまのオリヴィアさんもフォローしてくれるが、絶対にそんな事ない。だってあれは僕を軽蔑する目だもの。

僕は左耳を小さい頃に失くしたから、耳が無いって事で軽蔑されたり、意地悪されたりする事が少なからずあった。
うぅ、あの視線、絶対にあの時のと同じだもの。

「キーリー、あまり気にしなくて良い。嫌ならなるべく会わせないようにするから。」

僕はブレアにこう言って貰って少しホッとしたのもあるし、でもそれって嫁としてどうなの?とも思ったし、でもブレアの居ない時はなるべく避けようとも思った。

食事の時はなるべくその方向を見ず、あまり会話に加わらず、でも話を振られても困らないように話はずっと聞いて頭を回転させておく。
邸内では鉢合わせしないように最新の注意を払って道を決める。運良くお義父さまは歩き方に癖があるから分かりやすい。そのような音が聞こえたらクルッと方向転換して鉢合わせしないように極力努力した。

なので基本会うのは1日3回の食事の時だけだ。
ブレアが僕の様子を見て「別々に食事を取るか?」と提案してくれたけども、流石にそれは嫁として不出来過ぎるだろうと思って、意地でも出てやるとその時は心に誓った。



「っはぁぁぁ。僕、何やってんだろ。」

庭園の邸からは見えにくいベンチに座って深く息を吐く。

体力付けてムキムキになる宣言したのに、最近は食事が喉を通らず、以前の半分近くしか食べれてない。お義父さまの顔色を見過ぎて疲れちゃうし、普段は鉢合わせしないように気を使ってるし。あれ以来直接嫌味を言われたことは無いけど、またいつ言われるか分からないから凄く緊張する。

でも、使用人の方たちも皆「お茶目で面白みのある人」っていうんだ。だから、だから尚更僕は嫌われてるんだなと思ってしまう。

ぽけぇーっと近くに咲く色とりどりの花を見る。
もうすぐ冬だからこの素敵な庭園もどんどん咲いてるお花が減っちゃうんだろうなぁ。

…… 

!!
これはお義父さまの歩き方!
い、今から出て言っても鉢合わせしちゃう!隠れるところ、隠れるところ!

僕は咄嗟に庭師の道具小屋に飛び込んで扉を閉めた。道具小屋は日に当てては行けない肥料等もあるので扉を閉めたら真っ暗だ。

真っ暗な中、尻尾を丸めて耳を塞いで丸くなる。

気づかれませんように、気付かれませんように!願わくば早くお義父さまが邸に戻りますように!

聞きたくも無いのに、お義父さまと誰かの会話が聞こえてくる。

「……キーリーが……きて……かね?」
「だい………逃げ………ね。」

もしかして僕の事探してる!?
なんで!どうして!僕あれから何かした!?あからさまに避けてるのが良くなかった!?
でもあんな事言われて仲良くなんて出来ないし、そもそも僕の事嫌っているんでしょ?まだ何か言う気なの!?
む、無理無理無理無理、もーやだー早く帰ってぇ。

中々居なくならないお義父さまのおかげで、僕はしばらく道具小屋の中から出られなかった。

ようやく小屋から出られた頃には大分時間が経っていて、ブレアに気分転換して来いって言われてちょっと来ただけなのに、何やってたんだ?って心配されちゃうなぁ。

とぼとぼと思い足取りで戻り、お昼の時間だったのでそのままブレアと食堂へ向かう。

はぁ、さっき誰かとあんな会話してたんだもん。何か言われちゃうんだろうなぁ。

ところが、食堂に入った途端お義父さまが床に手をついてもの凄い勢いで謝って来たのだ。

「キーリー君すまない!本当に申し訳なく思っている!」

僕は驚きのあまりビビって尻尾を丸めてブレアに飛び付いてしまった。
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