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3.それぞれの思い

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本人も使用人として売られたと思っていた旅路にお供なんて変だなと思ってはいた。

だって使用人でしょ?
何処ぞのお偉い貴族の子息子女でもあるまいし、たかだか子爵の長男、しかもウザがられていた後妻の連れ子で元平民。

彼のことは特段嫌っては無いけども、なんで俺が?と思ったのは事実。

ただ、屋敷で彼のことを”伴侶”と呼び、愛おしいものを見るその瞳、初対面であろう日にがっちりホールドした人目も憚らぬ抱擁に、あ、伴侶ってガチなんだ、と俺は思った。

さて、旅路のお供という俺の仕事は終えたので、いつお暇しようかと考えていたら、ブレア様が給料は今までの倍で、キーリーの専属従者にならないかと提案してきた。

どう考えてもここの方が待遇面も良いはずだ。
それにハープ子爵にはブレア様からお伝えしてくださるとの事。

そして俺は特にハープ子爵家と契約はしていない。
父親がそこで働いていて、その流れで何となくハープ子爵家で働いていただけだ。

だから悩む暇もなく即決した。
只今からキーリー様の専属従者である。

それからキーリー様と共に案内されたのは 、俺は見た事ないような、最高級品を集めたそれでいてシンプルに整えられた部屋。洗練されているとはこういう事をいうのか。

キーリー様、滅茶苦茶愛されてるじゃないっすかぁ。

とりあえず、ゆっくり寛げと言われたのでキーリー様の為にお茶を淹れる。

わ、このお茶っ葉凄くいい香りがする。

お茶の淹れ方は見て覚えた。
間違ってはいないはずだ。まぁ、もし間違えててもここで見て覚えればいい。

一方、キーリー様は自分が伴侶として迎えられた事に困惑している。困惑というか、信じられないみたいだ。

高級ソファに驚きながらも、国を超えると伴侶は使用人という意味になるのか、なんて有り得ないことまで聞いてきた。

そんな訳ないだろう!と盛大に突っ込みたかったが俺は既にキーリー様の専属侍従。

そこはもちろん丁寧に対応した。流石俺。

ソファで寛ぎながらお茶を飲むキーリー様を眺めていたらドアをノックする音が響いた。

どうやらもう夕食の時間らしい。

俺は今日一日でただの雑用係からキーリー様の専属侍従に格上げされた。




☆☆☆☆☆




私の伴侶がはるばる隣国からやってきた。

その日の朝はいつ到着するのかと、朝から仕事が手に付かなかったのは内緒だ。

首を長くして待っていた伴侶の到着。名前はキーリー。

隣国から馬車で時間をかけて来てくれた、が、どう見ても荷物が少ない。
やはりハープ子爵家ではあまり良い待遇は受けてなかったものと見受ける。

キーリーはネコ族の中でも小柄な方だろう、彼の腕と足は俺が本気を出したらポキっと折れてしまいそうな程細い。
これは沢山食べさせて肉を付けさせないと。

ただ、薄着の彼を見る限り怪我のようなものは見当たらないから暴力等は無かったようで安心する。

彼は後妻の連れ子だ。
さらに突然やってきて長男という地位に着いた邪魔者だ。ハープ子爵なら後を継がせたく無いから何がなんでも家を出すか、後継になれないようにするはずだ。
それが暴力や最悪の形にならなかったようでホッとする。

私が歓迎の言葉で出迎えると、ハープ子爵からは聞いていなかったのだろうか。私が”伴侶”と言ったら吃驚して信じられないような表情をした。

驚いた表情の後に困惑顔、そして尻尾がピーンっとたってからふにゃふにゃして、もう全てが愛おしい。

そして視界に入る、欠けた左耳。

つい許可を得ず触ってしまったが、もっとガッツリ触って問題ないと言われたので力を強めて揉んだが、言われた通り今は何も無いらしい。

でも、きっと欠けてしまった時は痛かっただろう、辛かっただろう。今は全然平気だと言っているが、当時はそんな事無かったはずだ。

勝手に感極まってキーリーの事をぎゅっと抱き締めた。

これからご飯を腹いっぱい食わせて、好きな物買ってやるからな!

私はキーリーをとことん甘やかすことを心に決めた。

さて、部屋に案内しようと思った矢先、突然従者が帰ると言い出した。

仮にも今まで仕えていた主人を置いて帰るのか?という疑問と怒りがフツフツと湧いてきたが、ハープ子爵は節約家ケチとして有名。無料タダで従者を置いていかせることは損だとでも考えたのだろうな。

見知らぬ土地にキーリー1人では何かと心細かろう。

私は咄嗟にハンドサインで月給を提示した。
専属従者としては平均的な給料の提示だったが、二つ返事で了承の意が帰ってきた。

ハープ子爵家でどんな給料で働いていたのか少々疑問が残るが、キーリーに少しでも旅の疲れを癒して欲しくて部屋に案内した。

高級品ながらシンプルで統一した部屋に案内した途端、顔が呆然となっている。

きっとハープ子爵家で宛てがられた部屋も質素なものだったのだろう。

その顔があまりにも可愛くて愛おしくて、今すぐ抱きしめてスリスリと匂い付けしたい!という衝動が沸き起こったが、初日に私の行動で嫌われる訳にはいかないのでグッと堪える。

「夕飯まで寛いでくれ」という言葉を残して扉を閉めた。

実は隣の部屋が私の部屋だなんて知ったらどんな表情を見せてくれるのだろうか。楽しみで仕方がないが、それはまだ後に取っておくことにする。
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