上 下
30 / 39
第七章 火の国

一節 上陸

しおりを挟む
第七章

一節

 船に乗り込み六日が過ぎた。乗る前に払った金額の中に食事代なんかも含まれていたらしく、頼めば美味しい料理が出てきた。ここにきて久々に魚料理を食べたような気がする。ちなみに運ばれてきた料理に使われていた魚は、多くの海域に広く分布するサバのような魚だった。調理法は塩焼きと至ってシンプルだが、この魚に乗っている脂身に程よく塩味が利いていて、とても美味しかった。
 船の中は主に客室やら乗務員室などの部屋が多かったが、ファンタジー物のド定番。船内カジノがあった。客も船員も混ざり合ってギャンブルを楽しんでいる様だった。・・・というか船員の人たちは自分の仕事はないんだろうか・・・?船内で見かける客は、富裕層っぽい人とその護衛らしき人達が一割。冒険者っぽい服装をした人たちが三割。あとの六割は商人といったところだろうか。カジノの片隅や、船の甲板、さらには中の廊下で自分でバザーらしきものを開いては船員に注意されているのをちょくちょく見かけた。
 火の国に着くまであと一日。

 その日の夜。またあの夢を見た。

「こんばんは。夜分遅くにすいません。」
「・・・えっと~・・・あぁ、いつぞやの。・・・というか夜分遅くって・・・。」
「まぁ、気にしなくていいですよ。ところで、蒼竜通常種12体と大型種1体の討伐お疲れ様です。」
「え・・・ああ、七日前の。・・・ん、でもあれって11体じゃなかったですっけ・・・?」
「アクトゥルムに入る前に一体倒していたでしょう?」
「なるほど。・・・ということはあなたはあのギルドの人間ではない、と。」
「だから言ってるじゃないですか、神とでも考えておいてくださいって。」
「うーん・・・。信じるべきなのか信じないべきなのか・・・。」
「まぁまぁ、それはさておきですよ。これから火の国に行くみたいですね。」
「ええ、まぁちょっと。・・・というか、監視してるなら確認する意味はないんじゃ・・・?」
「いえいえ、そんなことは無いですよ。私たちが視ることができるのは、・・・いや、この場合聞くことができるのは、口に発した言葉だけですから。今、こうして話しているのは貴方の意識と身体の繋がりが弱まっているからこそできるんですよ。普段は意識なんて視えません。」
「・・・うーん・・・。いや、その話だと、前回は大きい怪我を負ったからとか説明が付きますけど・・・。今回のはそれじゃ説明付かないんじゃ・・・。」
「ほら、一回気絶したりするとクセが付いちゃうじゃないですか。それと同じような理屈です。」
「う、うーん・・・。」
「まぁまぁ、そこはそんなに気にしなくてもいいんですよ。それで、今回お伝えするのは火の村の位置です。・・・ほかの国の様子が気になる、と。そういうことでしたよね?ちゃんと地図は把握していますか?」
「・・・いえ・・・。」
「ですよね。とりあえず、火の国には大きな火山があります。そこの麓に火の村はあります。火山の場所は、船が着いたところからだと・・・北東あたりですね。」
「じゃあ見えるまで飛べ」
「ああ、ひとつ忠告しておきます。まだ船のついた辺りから北側へ進むくらいなら大丈夫ですが、途中から火山灰が降り始めます。特に火山に近づけば近づくほど、高く飛べば飛ぶほど火山灰は増します。水の国みたく縦横無尽に飛べるとは思はないほうが吉と思われます。」
「そう・・・ですか。」
「とにかく、この間の蒼竜を倒せたことに満足したりせず、死なないでく」

「ん・・・ふぁ~ぁ・・・。・・・火山灰・・・か。」
「もう、ユーリさん、いつまで寝てるつもりですか?」
「あれ、おはよう。もう起きてたのか。」
「もうじゃないですよ、全く・・・。もうお昼前ですよ?夕方には着くんですから、身支度を整えておいてくださいね。」
「あぁ・・・もうそんな時間なのか。わかった、ありがとう。」

鞄に金貨袋と証明板を、頭に忠告されたことを入れ、準備を整えた。その後昼食を終え、数時間の航海を楽しんでいると、船が火の国に到着した様だった。

 船から降りると、アクトゥルムと似たような街並みが広がっていた。船員さんに街の名前を聞いてみると、[マーレイ]というらしい。火の国に着いたが、まだそんなに水の国と変わったところはないような気がする。ただ、景色は水の国とは違った。遠くに見える大きな火山や、その麓の大地など、全体的に山脈のようになっているようだった。
 これまた船員さんに簡単にギルドの場所と、宿屋の場所を聞いた。この街では、ギルドに宿屋と酒場が併設されているんだとか。一つに固まってくれているなら、移動も楽だし、無駄に探す手間も省けて助かる。所持金を確認すると、110,200オームだった。宿に泊まるお金がいくらかかるかは分からないが、この間2,30人分の食費で20万だったから、二人分で、多くても2万もかからないだろう。まぁ、足りなければギルドから引き出せばいいだけだ。
 数分間街中を歩いていると、ギルドが見えてきた。もちろん、一緒に建っている酒場と宿屋も。まず宿屋によって、部屋を借りる。一泊食事代込で一人あたり、1500オームだそうだ。・・・あの酒場ではぼったくられたんだか、一人一人が躊躇なく飲み食いしまくっていたんだか・・・。とりあえずそこで言われたお金を払って宿の部屋に行く。部屋には、ちょっとした模様の彫られた家具のある、なかなかいい部屋だった。水の国の骨董品屋で換金してもらったお金で考えると、10円もしない金額でこんな綺麗な家具のある部屋に泊まれるのは、とんでもなくお得だ。というか現世なら赤字だろ・・・。部屋に着いた頃にはもう辺りは暗くなり始めていたので、酒場の方に行って腹ごしらえを済ます。そして部屋に戻ると、結局また眠りについてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...