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第六章 出立

三節 蒼竜

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三節

 30分から40分ほど飛び、ウルリアの村に着いた。入り口付近に着地し、アリアの家の方へ向かう。最初あれだけ訝し気な目で見てきた村人たちも、今は笑顔で挨拶をしてくれる。多分アリアとおっさんの力なんだろうなぁ。アリアの家の扉を鳴らすと、いつも通りの優しい笑顔のアリアが出てきた。その笑顔にさっきまでの不安が和らいだ気がした。

「おかえりなさい、ユーリさん!」
「うん、ただいま~。」
「ユーリ・・・だったか。久しぶりだな、はっはっは!」
「あ、おっ・・・デマさん。お久しぶりです。」
「それで・・・そうだな。とりあえずユーリ君と話がしたいから、席をはずしてくれないか、アリア。」
「わかりました。」

 そういうとアリアは部屋を出て行った。話ってなんだろ?

「・・・ほかの国に渡ろうということだそうじゃないか。」
「ええ。」
「精霊様のためということならわかる。だが、娘を連れていく事は反対だ。」
「・・・。」
「親バカだと言われようが、わしは絶対に反対だ。・・・あの子の母親・・・つまり私の嫁なんだが・・・。あの子を産んで数か月後には此処には居なかった。わしが男手一つで育ててきたんだ。そう易々と外出させたくないのが本心だ。・・・こんなことを君にいうのはどうかと思うが・・・ほかの国に渡るのを止めさせてくれないか・・・?」
「・・・お言葉ですが。付いてくると言ったのはアリアです。アリアが心配なのはわかりますが・・・。ですが、付いてくると言われた以上、ちゃんと守り抜いて見せます。それでも僕の手が回らなかったときは・・・。煮るなり焼くなり好きにしてください。」
「そう・・・か。・・・覚悟ができていないのはわしの方なのかもな・・・。すまん、なら・・・。アリアを頼んだ・・・。もし死なせるようなことがあってみろ・・・。その時は貴様を本当に焼いて灰にして畑に撒いてやるわ!」
「守り切れるかどうかは正直不安でしかないですが、それでも精一杯守り抜きます!」
「ああ、貴様になら・・・娘をやってもいいかもな」
「へ?」

 杜に帰ろうと思って、アリアの部屋に顔を出すとどうやら話を盗み聞きしていたらしく、顔が赤くなっていた。

 アリアと杜に戻り、夕飯やらを済ませた後、今後のルートを考えることにした。
目的地は水の国最北端にある街、[アクトゥルム]基本的に飛んでいけば済む話ではあるが、アリアの家にあった水の国の地図を見ると、アクトゥルムの南側は山で覆われていることがわかる。水の村を覆っていた崖は、アクトゥルムの西側の山脈の一部だったようだ。東側の山は、西に比べるとそんなに高くないらしい。その山脈付近に[アクアラグーン王国]という国名が書かれている。そういえば、何気に今まで「王」とかそういうファンタジーにはつきものの単語を聞かなかったな。
 ちなみに、水の国は簡単に言うとL字型で、それを大河が三つに分断しているような形をしている。北ブロックと南ブロック、あと東ブロックとあるようだ。この杜はというと、南西端のところにある。そこから東側にウルリアの村がある。地図で見ると、本当に杜の真北に水の村あるんだなぁ・・・。

 地図を見たうえで決めたルートは、まず、取り敢えず行けるところまで飛んで行ってみる。そして山が予想以上に高かったり、行くのが困難だと判断した場合、アクアラグーンに寄り道し、そこからアクトゥルムへ。

「さて、とりあえずこのルートで行ってみようか。」
「そうですね・・・。あ、でも山の方は・・・。」
「ん?山が何かあった?」
「あ、いえ大丈夫です。」
「?」

 朝になり朝食を食べ、支度を済ませた。財布やら筆記用具やらと、今回は地図を持ってアリアと杜から出た。いつものように飛んでいると、水の村が見えてきた。普段あまり気にしていなかったが、地図を見ながら飛ぶと、意外とこの地図が正確なことがわかる。ちゃんと地図通りに村や森なんかがあるからそれを見ているだけでも案外面白い。
 水の村を通り過ぎ、また10分くらい飛んでいると、段々と険しい山脈が見えてきた。水の村より先は行ったことが無かったから、見るものすべてが新鮮だった。ちらっとアリアの方を見てみると、アリアも同じらしく目をきらきらと輝かせていた。山を東側から迂回しながら飛んでいると、グギャァアアというような鳴き声が聞こえてきた。一度動きを止め、ホバリング状態になってあたりを見渡すと、山の方に青い竜が数匹いるのが分かった。

「あ・・・。やっぱり・・・。ユーリさん、降りましょう!!」
「え、ちょ、何あれ?」
「あれは蒼竜です!気づかれないうちに・・・」

グギャァァァアアアアアア!!!!

「えっ、えっ?」
「早く!!!来ますよ!!!」

ギャアァアァァァアアア!!!

 その時、一匹の竜がこちらの事を見つけたのかものすごい勢いで突っ込んできた。
なんとか移動してかわすと、竜は腹を外に向けながら縦に半周、そこから横に半周して、下に向き直すと急降下してまた突撃してきた。

「うわっ!あぶなっ!」
「だから言ったじゃないですかぁ!!」
「ご、ごめんて。うぉっ!!と、とにかく捕まっといて!」
「た、戦う気ですか!?うわぁ!!も、もう!!ユーリさんのバカァ!!!」

こうして会話している間にも何度も突撃された。何とか回避していると、今度は氷塊を飛ばしながら飛んできた。それを土壁で防御しつつ、次の攻撃に持っていけないかを見計らった。攻撃は
確かに強いが、基本的に一定のパターンで動いているのを使って・・・。
 まず、竜より先に飛んできた氷塊を土壁を使って防御。そしてその土壁の形を土弾の形に変形させて、あとから来た竜の胸元に発射!めり込みはしたが、若干怯んだだけだった。そしてそこから更に形状変化で、その土塊から更に土の槍を拡散して5本伸ばす。一本は最初に当たった胸元に。一本は首に。もう一本は腹に。そして残りの二本は両翼に突き刺さった。
 グゲェェェエエアアァアァアアアアアァという断末魔を残して墜ちて行った。

「ふぅ・・・。竜って怖いな・・・。」
「り、竜を倒せるなんて・・・本当に凄いです・・・ユーリさん。」
「え、そうなのか。・・・下に落ちてまだ生きてるなんてことないよな・・・?」
「無い・・・と思いますが、一応とどめさして置いた方がいいんじゃないですか?」
「そうだよな・・・。行くか。」

急降下して、地面に着地した。落下中ももがいていたらしく、槍が主に翼により深く刺さっていた。鼻の奥を刺激するような鉄のにおいが辺り一帯に広がっていた。よくよく見てみると、刺さった槍の所為で大きな動作は出来ないようだが、まだぴくぴくしていて、息があった。さっきまでのような声はしないが、カヒュ・・・カヒュゥ・・・のような呼吸音が聞こえた。ここまでしてまだ死なないって・・・生命力強すぎかよ・・・。その竜は地面からの特大の土槍によって、最期を迎えた。
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