廃園

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後編*ヴィルヴィとラントラファス*10

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<14>

 幾度も、長(おさ)に言葉を失わせる会合になっている。

 やがてトロスロッサが言った。呆れたような声だった。
「狩る、のですか?設計者と時を?」
「そうだ。」
「どちらも全世界を管理する者。すなわち我らから見れば、超越者です。我らとは、存在の規模があまりに違いますぞ。おわかりでしょう。」

 長(おさ)の多くが頷(うなず)いた。ヴィルヴィは言った。
「まもなく我らは消滅させられる。今の我らにできることは、どれほどある?」

 トロスロッサが苛立たし気に言った。
「そもそも本当に、エウデアトの消滅は決定しているのですか?誰がそう宣言したのです?ラントラファスですか?」
 トロスロッサは痛いところを突(つ)いてきた。だが、ヴィルヴィは答えた。
「正直に言えば、ラントラファスの言葉しかない。」
「では、女王、そのように荒唐無稽(こうとうむけい)なことは…。」

「だが、我らが衰退の道を歩(あゆ)んでいるのは明らかではないか?子供の生まれる数は減るばかりだ。このままでは、エウデアトはいずれ確実に滅びる。そして、自覚のある者はどれくらいいるのだろうか?今のエウデアトは、何をするにも無気力で無関心だ。しかもそれが、ひどくなってきてはいないか?私には、我らの精神がほどけてきているように見える。こんなことで、エウデアトに先があると言えるだろうか?」
 ヴィルヴィの言葉は熱と力を持ち、長(おさ)達を打った。「私はずっと不安だった。だがそれ以上に恐(おそ)れるべきだったのは、自分の精神が虚(うつ)ろになっていくのがわかりながら、私自身が、次第にそれを恐ろしいと感じなくなったことだ。」

 思い当たるのか、長(おさ)達の中に、居心地(いごこち)悪そうに身じろぎする者がいた。

「このままいけば、我らはただの木偶(でく)になるばかりだ。私は、自分がそのような体(てい)たらくになることに我慢できぬ。我がエウデアト全てがそうなるのは、もっと耐えられぬ。」

 ヴィルヴィは一旦(いったん)言葉を切り、息を吸い込んだ。

「私は間違いなく、エウデアトは滅びに向かっていると思う。もしもそれが、何者かの意思であるならば、私は我らの滅亡を、手をこまねいて受け入れるのは嫌だ。持てる全ての力を使って、戦いたい。いや、戦う程度ならば、確実に負ける。だから私は、相手を狩りたいのだ。」

 誰かが、ごくりと喉を鳴らした。恐る恐るケラシルが言った。
「女王はそのようなことを考えておられたのですか。」
「そうだ。なぜならば私は混沌のお力を使うことができる。正直、私の、混沌のお力をどこまで使うことができるのか、限界が見えないのだ。私の力を全開させたとき、どこまで通用するのかしないのか、全く見当がつかない。だから、私の力の限界を試したい。うまくいけば、設計者と時を狩ることも、不可能ではないかもしれない。これは虚勢(きょせい)でも誇張(こちょう)でもなく、本当のことだ。さらに言えば、何もしなければ確実に我らは滅亡するだろうが、滅亡を回避するために力を尽くせば、可能性は開かれるかもしれぬ。」

「本気で仰(おお)せですか?」
「本気だ。何にせよ、やってみねばわからぬ。我らの力が効くのかどうか、限界まで力を尽くさねばわからぬのだ。」

 長(おさ)達は黙った。

 ヴィルヴィの言うことは理解できる。だが、自分たちの命運を握る相手に歯向かうなど、可能なのか?そもそもどうやって戦うあるいは狩るというのか?

 ヴィルヴィには、長(おさ)達の迷う声が聞こえる気がした。ヴィルヴィは長(おさ)達が賛同してくれるか、確信はなかった。もし賛同が得られなくとも、やると決めている。ただ、皆の力があれば心強かった。

 エザーニャの女(おんな)長(おさ)ポルラが立ち上がり、言った。
「結構。私は、女王と共に参りましょう。」

 ソケメットの女(おんな)長(おさ)セスラヤも言った。
「私も、民(たみ)の精神が崩れていくのは、絶対に阻止(そし)したい。私も女王に従います。」

 その後、他にも賛同してくれる長(おさ)達が続いた。


<15>

 ヴィルヴィの執務室で、影のように身を潜(ひそ)めたラントラファスが問うた。
「長(おさ)の皆様は、ご協力下さいますか。」
 ヴィルヴィが「うむ。」と答えた。

「何よりでございました。で、この後はいかがなさいますか?」
「うむ。まず私は情報が欲しい。ラントラファス、そもそも、設計者と時とは一体何なのだ?特に、設計者とは何者だ?なぜ時は、設計者と一(ひと)括(くく)りになっているのか?そなたにはわかるか?」

 ラントラファスは少し考えて答えた。
「その昔、混沌は世界を創ろうとお考えになりました。そして、世界を設計しデザインし、管理する者として設計者をお造りになったと聞いております。時は、設計者がお造りなったそうです。」

「なぜ設計者は時を造り給(たも)うたのだ?」
「設計者は、世界を管理するには、法則が必要だと考えられたのです。法則には、変化の長さを計(はか)る必要があるとか。変化を計測するために、設計者は時をお造りになったと伺っております。」
「そうか。では設計者は常に、時で世界の変化を計測し、管理なさっているということか。」
「はい。」
「そうか。」

 ヴィルヴィは考え込んだ。「今一つわからぬな。イメージできぬ。設計者と時は、そなたにはどのように見える?」
「そうですね…。はっきり申し上げて、お姿は見えません。お声だけが私に響いてまいります。」
「ふむ…。」
 やがてヴィルヴィは言った。「混沌にお尋ねしてみよう。」


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