30 / 39
後編*ヴィルヴィとラントラファス*10
しおりを挟む
<14>
幾度も、長(おさ)に言葉を失わせる会合になっている。
やがてトロスロッサが言った。呆れたような声だった。
「狩る、のですか?設計者と時を?」
「そうだ。」
「どちらも全世界を管理する者。すなわち我らから見れば、超越者です。我らとは、存在の規模があまりに違いますぞ。おわかりでしょう。」
長(おさ)の多くが頷(うなず)いた。ヴィルヴィは言った。
「まもなく我らは消滅させられる。今の我らにできることは、どれほどある?」
トロスロッサが苛立たし気に言った。
「そもそも本当に、エウデアトの消滅は決定しているのですか?誰がそう宣言したのです?ラントラファスですか?」
トロスロッサは痛いところを突(つ)いてきた。だが、ヴィルヴィは答えた。
「正直に言えば、ラントラファスの言葉しかない。」
「では、女王、そのように荒唐無稽(こうとうむけい)なことは…。」
「だが、我らが衰退の道を歩(あゆ)んでいるのは明らかではないか?子供の生まれる数は減るばかりだ。このままでは、エウデアトはいずれ確実に滅びる。そして、自覚のある者はどれくらいいるのだろうか?今のエウデアトは、何をするにも無気力で無関心だ。しかもそれが、ひどくなってきてはいないか?私には、我らの精神がほどけてきているように見える。こんなことで、エウデアトに先があると言えるだろうか?」
ヴィルヴィの言葉は熱と力を持ち、長(おさ)達を打った。「私はずっと不安だった。だがそれ以上に恐(おそ)れるべきだったのは、自分の精神が虚(うつ)ろになっていくのがわかりながら、私自身が、次第にそれを恐ろしいと感じなくなったことだ。」
思い当たるのか、長(おさ)達の中に、居心地(いごこち)悪そうに身じろぎする者がいた。
「このままいけば、我らはただの木偶(でく)になるばかりだ。私は、自分がそのような体(てい)たらくになることに我慢できぬ。我がエウデアト全てがそうなるのは、もっと耐えられぬ。」
ヴィルヴィは一旦(いったん)言葉を切り、息を吸い込んだ。
「私は間違いなく、エウデアトは滅びに向かっていると思う。もしもそれが、何者かの意思であるならば、私は我らの滅亡を、手をこまねいて受け入れるのは嫌だ。持てる全ての力を使って、戦いたい。いや、戦う程度ならば、確実に負ける。だから私は、相手を狩りたいのだ。」
誰かが、ごくりと喉を鳴らした。恐る恐るケラシルが言った。
「女王はそのようなことを考えておられたのですか。」
「そうだ。なぜならば私は混沌のお力を使うことができる。正直、私の、混沌のお力をどこまで使うことができるのか、限界が見えないのだ。私の力を全開させたとき、どこまで通用するのかしないのか、全く見当がつかない。だから、私の力の限界を試したい。うまくいけば、設計者と時を狩ることも、不可能ではないかもしれない。これは虚勢(きょせい)でも誇張(こちょう)でもなく、本当のことだ。さらに言えば、何もしなければ確実に我らは滅亡するだろうが、滅亡を回避するために力を尽くせば、可能性は開かれるかもしれぬ。」
「本気で仰(おお)せですか?」
「本気だ。何にせよ、やってみねばわからぬ。我らの力が効くのかどうか、限界まで力を尽くさねばわからぬのだ。」
長(おさ)達は黙った。
ヴィルヴィの言うことは理解できる。だが、自分たちの命運を握る相手に歯向かうなど、可能なのか?そもそもどうやって戦うあるいは狩るというのか?
ヴィルヴィには、長(おさ)達の迷う声が聞こえる気がした。ヴィルヴィは長(おさ)達が賛同してくれるか、確信はなかった。もし賛同が得られなくとも、やると決めている。ただ、皆の力があれば心強かった。
エザーニャの女(おんな)長(おさ)ポルラが立ち上がり、言った。
「結構。私は、女王と共に参りましょう。」
ソケメットの女(おんな)長(おさ)セスラヤも言った。
「私も、民(たみ)の精神が崩れていくのは、絶対に阻止(そし)したい。私も女王に従います。」
その後、他にも賛同してくれる長(おさ)達が続いた。
<15>
ヴィルヴィの執務室で、影のように身を潜(ひそ)めたラントラファスが問うた。
「長(おさ)の皆様は、ご協力下さいますか。」
ヴィルヴィが「うむ。」と答えた。
「何よりでございました。で、この後はいかがなさいますか?」
「うむ。まず私は情報が欲しい。ラントラファス、そもそも、設計者と時とは一体何なのだ?特に、設計者とは何者だ?なぜ時は、設計者と一(ひと)括(くく)りになっているのか?そなたにはわかるか?」
ラントラファスは少し考えて答えた。
「その昔、混沌は世界を創ろうとお考えになりました。そして、世界を設計しデザインし、管理する者として設計者をお造りになったと聞いております。時は、設計者がお造りなったそうです。」
「なぜ設計者は時を造り給(たも)うたのだ?」
「設計者は、世界を管理するには、法則が必要だと考えられたのです。法則には、変化の長さを計(はか)る必要があるとか。変化を計測するために、設計者は時をお造りになったと伺っております。」
「そうか。では設計者は常に、時で世界の変化を計測し、管理なさっているということか。」
「はい。」
「そうか。」
ヴィルヴィは考え込んだ。「今一つわからぬな。イメージできぬ。設計者と時は、そなたにはどのように見える?」
「そうですね…。はっきり申し上げて、お姿は見えません。お声だけが私に響いてまいります。」
「ふむ…。」
やがてヴィルヴィは言った。「混沌にお尋ねしてみよう。」
幾度も、長(おさ)に言葉を失わせる会合になっている。
やがてトロスロッサが言った。呆れたような声だった。
「狩る、のですか?設計者と時を?」
「そうだ。」
「どちらも全世界を管理する者。すなわち我らから見れば、超越者です。我らとは、存在の規模があまりに違いますぞ。おわかりでしょう。」
長(おさ)の多くが頷(うなず)いた。ヴィルヴィは言った。
「まもなく我らは消滅させられる。今の我らにできることは、どれほどある?」
トロスロッサが苛立たし気に言った。
「そもそも本当に、エウデアトの消滅は決定しているのですか?誰がそう宣言したのです?ラントラファスですか?」
トロスロッサは痛いところを突(つ)いてきた。だが、ヴィルヴィは答えた。
「正直に言えば、ラントラファスの言葉しかない。」
「では、女王、そのように荒唐無稽(こうとうむけい)なことは…。」
「だが、我らが衰退の道を歩(あゆ)んでいるのは明らかではないか?子供の生まれる数は減るばかりだ。このままでは、エウデアトはいずれ確実に滅びる。そして、自覚のある者はどれくらいいるのだろうか?今のエウデアトは、何をするにも無気力で無関心だ。しかもそれが、ひどくなってきてはいないか?私には、我らの精神がほどけてきているように見える。こんなことで、エウデアトに先があると言えるだろうか?」
ヴィルヴィの言葉は熱と力を持ち、長(おさ)達を打った。「私はずっと不安だった。だがそれ以上に恐(おそ)れるべきだったのは、自分の精神が虚(うつ)ろになっていくのがわかりながら、私自身が、次第にそれを恐ろしいと感じなくなったことだ。」
思い当たるのか、長(おさ)達の中に、居心地(いごこち)悪そうに身じろぎする者がいた。
「このままいけば、我らはただの木偶(でく)になるばかりだ。私は、自分がそのような体(てい)たらくになることに我慢できぬ。我がエウデアト全てがそうなるのは、もっと耐えられぬ。」
ヴィルヴィは一旦(いったん)言葉を切り、息を吸い込んだ。
「私は間違いなく、エウデアトは滅びに向かっていると思う。もしもそれが、何者かの意思であるならば、私は我らの滅亡を、手をこまねいて受け入れるのは嫌だ。持てる全ての力を使って、戦いたい。いや、戦う程度ならば、確実に負ける。だから私は、相手を狩りたいのだ。」
誰かが、ごくりと喉を鳴らした。恐る恐るケラシルが言った。
「女王はそのようなことを考えておられたのですか。」
「そうだ。なぜならば私は混沌のお力を使うことができる。正直、私の、混沌のお力をどこまで使うことができるのか、限界が見えないのだ。私の力を全開させたとき、どこまで通用するのかしないのか、全く見当がつかない。だから、私の力の限界を試したい。うまくいけば、設計者と時を狩ることも、不可能ではないかもしれない。これは虚勢(きょせい)でも誇張(こちょう)でもなく、本当のことだ。さらに言えば、何もしなければ確実に我らは滅亡するだろうが、滅亡を回避するために力を尽くせば、可能性は開かれるかもしれぬ。」
「本気で仰(おお)せですか?」
「本気だ。何にせよ、やってみねばわからぬ。我らの力が効くのかどうか、限界まで力を尽くさねばわからぬのだ。」
長(おさ)達は黙った。
ヴィルヴィの言うことは理解できる。だが、自分たちの命運を握る相手に歯向かうなど、可能なのか?そもそもどうやって戦うあるいは狩るというのか?
ヴィルヴィには、長(おさ)達の迷う声が聞こえる気がした。ヴィルヴィは長(おさ)達が賛同してくれるか、確信はなかった。もし賛同が得られなくとも、やると決めている。ただ、皆の力があれば心強かった。
エザーニャの女(おんな)長(おさ)ポルラが立ち上がり、言った。
「結構。私は、女王と共に参りましょう。」
ソケメットの女(おんな)長(おさ)セスラヤも言った。
「私も、民(たみ)の精神が崩れていくのは、絶対に阻止(そし)したい。私も女王に従います。」
その後、他にも賛同してくれる長(おさ)達が続いた。
<15>
ヴィルヴィの執務室で、影のように身を潜(ひそ)めたラントラファスが問うた。
「長(おさ)の皆様は、ご協力下さいますか。」
ヴィルヴィが「うむ。」と答えた。
「何よりでございました。で、この後はいかがなさいますか?」
「うむ。まず私は情報が欲しい。ラントラファス、そもそも、設計者と時とは一体何なのだ?特に、設計者とは何者だ?なぜ時は、設計者と一(ひと)括(くく)りになっているのか?そなたにはわかるか?」
ラントラファスは少し考えて答えた。
「その昔、混沌は世界を創ろうとお考えになりました。そして、世界を設計しデザインし、管理する者として設計者をお造りになったと聞いております。時は、設計者がお造りなったそうです。」
「なぜ設計者は時を造り給(たも)うたのだ?」
「設計者は、世界を管理するには、法則が必要だと考えられたのです。法則には、変化の長さを計(はか)る必要があるとか。変化を計測するために、設計者は時をお造りになったと伺っております。」
「そうか。では設計者は常に、時で世界の変化を計測し、管理なさっているということか。」
「はい。」
「そうか。」
ヴィルヴィは考え込んだ。「今一つわからぬな。イメージできぬ。設計者と時は、そなたにはどのように見える?」
「そうですね…。はっきり申し上げて、お姿は見えません。お声だけが私に響いてまいります。」
「ふむ…。」
やがてヴィルヴィは言った。「混沌にお尋ねしてみよう。」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる