BOYS2️⃣

♤『最愛』（SIDE 白鳥 慎）

～～～～登場人物～～～～


♤白鳥　慎（しらとり　しん）　２０歳　ギター

ロックバンドCrossのギタリスト。
艶黒髪。センター分けのストレートボブヘア。美少年。着物が似合いそうな美しい顔立ち、気品のある少年。
亮とは同郷で元恋人同士。
流風を尊敬し、愛している。誰に対しても敬語で話す。



♤早川　亮（はやかわ　あきら）２３歳　

ロックバンドSAWのギタリスト。
黒髪に白メッシュのミディアムヘア。タレ目だが目力のあるイケメン。いつも仏頂面で、眉間にシワを寄せている。愛煙家。
Crossのギタリスト慎は、同棲していた元恋人。慎への気持ちを引きずっている。


♤八神　流風（やがみ　るか）２２歳　ボーカル

ロックバンドCrossのボーカル。雷の兄。
黒髪テクノカット。同じバンドのギタリスト、慎とは恋人同士で公認の仲。

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♤『最愛』（SIDE 白鳥 慎）


「今夜は大活躍中のバンド、SAWとcrossのみなさんにお越しいただいています。」

久々に音楽番組で亮さんのバンドと一緒になった。
顔を合わせるのはいつ以来だろう？
亮さんは同郷で、僕の初恋の相手。
僕がギタリストになるきっかけを与えてくれた人だ。
亮さんとの出会いは、僕とギターとの出会いでもあった。

彼と別れてから、音楽番組やフェスで会うことは時々あった。
その度に僕は何処かへ逃げ出したいような気持ちになって、流風さんの一歩後ろへ隠れるように位置をとる。

亮さんのギターを初めて聴いた時の感動は今もこの胸の中にある。
自分もギタリストになって、これまでに色々なギタリストの人たちと会ったけれど、亮さんのギター以上に僕の心を揺さぶる人はいなかった。きっとこれからも居ないと思う。

あの時の胸の高鳴り。
あの瞬間から僕の人生は変わってしまった。
僕の人生からギターを取ってしまったら、他には何も残らないくらいに、僕はギターの虜になった。

隣に座るSAWのメンバーをチラリと見ると、亮さんと目が合った。
彼の顔を見ると、胸がざわざわする。
喧嘩別れしたわけじゃないし、お互い前を向いて納得した上で別れたはずなのに、どうしてこんなに気まずいのだろう。

亮さんは想っていることがあっても、絶対に口には出さない。
意地を張ってるとかそういうことじゃなくて、そういう人なんだと思う。
それでも、彼と目が合うとそれだけで僕はほとんどのことを感じ取ってしまう。
目は口ほどにものを言うというのは、その通りだと思った。

亮さんはまだ僕のことを、特別に想ってくれている。
「初めて」っていうのは、「特別」として分類されやすいものだ。
僕もそうだからよくわかる。
僕の初恋は亮さんで、亮さんの初恋は僕だから。


「慎、大丈夫？」

演奏前、ボーッとしていた僕に、流風さんが声をかけてくれる。

彼が僕の肩に手をかけると、客席からキャー！と黄色い声が上がった。

「大丈夫です。流風さん・・愛してます。」

「慎、僕もだよ。」

流風さんは僕の恋人で、運命の人。

流風さんと僕はファン公認の仲だから、恋人同士であることを隠さずに生活出来ている。
それはすごくありがたいことだし、幸せなことだ。

でもそうであるが故に、流風さんが僕に冷めたとしても言い出せないんじゃないかなんて勝手に心配して空回りする自分がいて、時々辛い。
どんなに恵まれた環境にある恋人同士でも、お互いのことを想って辛くなることはあるんだろうな。
今、僕はこんなに幸せなのに。


流風さんも亮さんと同じで、多くを語らないタイプの男性だ。
その上、思っていることが顔に出ないから、僕は流風さんの言葉の全てをただ信じることしか選択肢がない。
僕が亮さんとのことを流風さんにあまり話さないのと同じように、流風さんも僕に話していないことがたくさんあると思う。
恋人同士であってもそれは当然のことなんだけれど、それを寂しいと感じるくらいに僕は流風さんに恋い焦がれているから、苦しかった。

彼が好きで、好きで、たまらなかった。
ギターと同じように、僕の人生になくてはならない人。
最愛の恋人。



収録が終わってメンバーで楽屋へ戻る。
廊下を歩いていると、サングラスをかけた背の高い男性が、声をかけてきた。

「あれ？お前、流風かぁ？」

彼を見た瞬間の流風さんの表情に、僕は知らなくて良いはずの多くのことを見てしまう。

「哲哉・・・？」

僕の知らない流風さんの表情。声色。彼に対する、眼差し。

僕の恋は一瞬にして不穏な音色に変わってしまった。


最愛の彼の知らない一面をこれからたくさん見ることになるとは、この時の僕はまだ夢にも思っていなかった。