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パラダイス

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「ったく、どうすんだよ。この女ぁ。」

私に近づいてきたのは、ワンレンヘアのイケメン。
肩まで伸びた黒髪。この髪型がしっくりくるのは顔が良いからだ。
誰にでもできるヘアスタイルじゃない。

大我たいがと呼ばれるこの男性は、顔が小さく手足が長い。
ロン毛のせいなのか、立ち振る舞いのせいなのか、やんちゃな印象が強かった。

(まぁ、悪の組織の人間だしね・・・・)

他の男性陣は部屋の隅で話し合いをしているが、彼は参加する気がないのかこちらへ近づいてくる。
私が横たわる黒革のソファーに、彼は遠慮なくドシンと腰掛けた。


「つうかお前・・・・」

私の顎をくいっと指で掴んで引き寄せ、じーっと見つめてくる。


(ちょっ、イケメンのドアップ・・・・!!心臓に悪いから辞めて・・・・!)

今から殺されるかもしれないというのに、私も呑気なものだ。
イケメンを目の前にすると心臓がドキドキと高鳴って、生きていることを実感する。

(肌めちゃくちゃ綺麗・・良いにおいがする・・・顔カッコイイ・・・・!!!)

イケメンという生き物がこれほど至近距離に寄ってくるのは、人生初の経験だった。


「可愛いじゃん。」

(え?ええええ?!なんて・・?今、なんて・・?!)


「すげータイプだわ、お前。俺、地味な女が好きなんだよな。こういう仕事してると周りに寄ってくんのは派手な良い女ばっかりでさ。」


遠回しにけなされた気がする。
それでもそんなことまるで気にならないくらいに、イケメンの言葉のパワーは凄まじかった。

(こんなイケメンにタイプって言われた・・・・!!!イケメン以外の男にもそんなの言われたことないのに・・・!!)

人生の運を全て使い果たした気分になる。
これから殺されるとしても、我が人生に悔いなし・・・そうとまで思わせるイケメンの言葉のエネルギー。



「ちょっと大我!俺が連れてきたんだから、勝手に殺したりしないでよ!?」

オレンジの髪の少年が、物騒なことを言いながら割って入ってくる。

(せっかくいいところだったのに・・・・)


「大我さん、だろ?呼び捨てにすんな。楓馬ふうま。お前、年下のくせに生意気なんだよ。」

大我が少年の頭をバシンと、思い切り叩いた。
少年は楓馬ふうまという名前らしい。


「お姉さん!俺、責任持ってあんたのこと助けるから!信じて!!」

楓馬は寝転ぶ私の肩を、ぎゅっと抱きしめた。

(え・・何?ここ・・・パラダイス・・・?)


私は二人のイケメンに挟まれながら、幸せな最期の時を過ごす。
どうせこの後、殺されるのだろう。悪の組織とはそういうものだ。



「ってか、この結束バンド誰が付けたんだよ?痛くね?」

大我が私の手と足を拘束している結束バンドをまじまじと見ながら、そう言った。


「大我のパートナーだっつうの!そうさんだよ!!」

漫才のツッコミのように、楓馬が大声を上げる。


宗というのは、最初に私に近づいてきたサラサラ黒髪の男らしい。
名前を呼ばれてチラリとこちらに視線を寄越した。
白い肌に黒髪、黒目がちの瞳。線が細く綺麗な顔立ちの男性で、中性的な印象が強い。


「宗さん、久々に拷問できるって楽しみにしてたからなぁ・・」

そう言いながら、大我は私の手足から結束バンドを外してくれた。


「あ・・・ありがとう・・・大我君・・・っ」

思わず涙目になる。
悪の組織にも人の痛みがわかる人間がいたのか、と感動してしまった。


「お・・・おう。」

彼が私の顔を見て赤面する。照れたような表情がとても可愛い。


(え、え・・?意外とウブなところあるのかな、この人・・・・いや、それにしてもイケメンだわぁ・・・♡)


私はこれから殺されるかもしれないというのに、相変わらず緊張感のない呑気な感想を抱いていた。
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