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『風邪』
しおりを挟む夫の愛が、風邪をひいた。
いつも強気な彼が、美しい顔を歪めて横たわっているのを見て、一瞬ときめいた自分を責める。
(愛ちゃんが苦しんでるのに、ドキドキするなんて私って最低・・・っ!熱でダウンしてる時までこんなに綺麗って・・イケメンは罪深い・・・♡)
頬が赤く染まり、目はトロンと熱を持って潤んでいる。
行為の最中に見せる彼の熱い眼差しを思い出してしまい、ソワソワしながらお粥をテーブルに置いた。
「愛ちゃん、大丈夫?律さん特製のお粥、食べれそう?」
「嘘でも自分で作ったって言えばいいのに・・正直だね。」
苦笑した彼が、息切れしながら私の手を握る。
てのひらの熱さに、急に不安が襲う。先ほどより熱が上がっているみたいだ。
「美味しい卵粥だよ。」
「味見したの?繭らしいね。」
高熱で苦しそうなのに、私を見て笑う彼の瞳には愛情が溢れている。
「繭、もう良いから、この部屋に入ってこないで。風邪うつしたら嫌だし。」
「大丈夫だよ。」
放された手をとって、握りなおすと、彼は瞬時に振り払った。
「良いってば。うつるだろ?そんな心配しなくても、俺は風邪くらいで死んだりしないよ。」
「でも・・・」
「でもじゃない。出て行って。」
急に冷たい態度で突き放す彼に、戸惑う。
愛は大人だ。
誰よりも自立していて、一人でなんでもこなしてしまう。
体調が悪い時くらい頼って欲しいと思うのは、迷惑なんだろうか。
「私は愛ちゃんの妻だよ。何もできないかもしれないけど、もっと甘えて欲しいな。」
「繭は・・・全然何もわかってない。そういうところだよ、繭はほんと鈍感だから、俺のこと全部わからせてやりたいって乱暴な気持ちになる。」
「愛ちゃん、」
「俺が繭と同じ空間にいる時、どんな気持ちでいるのか・・・無理矢理押さえつけて身体でわからせてやりたいってね。」
一度振り払った私の手を握る、彼の手が熱い。
以前、彼に言われたことを、思い出す。
私が思っているよりずっと、彼は男なのだと。
「俺は繭と二人きりでいると、ムラムラしてたまんない気持ちになるんだよ。わかんない?」
高熱で寝込んでいるのに、そんな時でさえ私に欲情するという夫の精力に、思わず惚れ惚れしてしまう。
「熱があるのに馬鹿みたいじゃんか。」
女性と間違えてしまいそうなほど美しい顔の下で、荒々しく欲望をたぎらせている彼。
身体の相性が良くて、彼とのセックスは何度だって上り詰めることができた。
思い出して、身体が一気に熱くなる。
「風邪治ったら、シよ。愛ちゃん。」
愛に負けないくらい、私の顔は真っ赤に染まっているだろう。
「俺がどれくらい繭のこと好きか、わかった?治ったら一晩中抱くから、覚悟してよね。」
二人きりで過ごす時、彼は普段よりさらに大人びて見える。
大人の男性の熱い視線で見つめられ、私は愛に抱きしめて欲しくてたまらなくなった。
赤い顔で手を握り合っていると、ノック音がして律が入室してくる。
「ビタミンも摂った方がいいと思って、デザート持ってきたぞ。」
律が、りんごを切って持ってきてくれた。
慌てて、握り合っていた手を離す。
「邪魔したか?ごめんな。」
苦笑しながら私の隣に座った律は、サイドテーブルに食器を置く。
「律、ありがと。繭のこと連れてってくれる?ここに二人でいたら、俺、襲っちゃいそうだから。」
律は一瞬目を丸くしたけれど、すぐに優しく微笑んで頷いた。
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