上 下
56 / 184

『風邪』

しおりを挟む


夫のあいが、風邪をひいた。
いつも強気な彼が、美しい顔を歪めて横たわっているのを見て、一瞬ときめいた自分を責める。

(愛ちゃんが苦しんでるのに、ドキドキするなんて私って最低・・・っ!熱でダウンしてる時までこんなに綺麗って・・イケメンは罪深い・・・♡)


頬が赤く染まり、目はトロンと熱を持ってうるんでいる。
行為の最中に見せる彼の熱い眼差しを思い出してしまい、ソワソワしながらおかゆをテーブルに置いた。

「愛ちゃん、大丈夫?りつさん特製のお粥、食べれそう?」

「嘘でも自分で作ったって言えばいいのに・・正直だね。」

苦笑した彼が、息切れしながら私の手を握る。
てのひらの熱さに、急に不安が襲う。先ほどより熱が上がっているみたいだ。

「美味しい卵粥たまごがゆだよ。」

「味見したの?繭らしいね。」

高熱で苦しそうなのに、私を見て笑う彼の瞳には愛情が溢れている。


「繭、もう良いから、この部屋に入ってこないで。風邪うつしたら嫌だし。」

「大丈夫だよ。」

放された手をとって、握りなおすと、彼は瞬時に振り払った。


「良いってば。うつるだろ?そんな心配しなくても、俺は風邪くらいで死んだりしないよ。」

「でも・・・」

「でもじゃない。出て行って。」

急に冷たい態度で突き放す彼に、戸惑う。

愛は大人だ。
誰よりも自立していて、一人でなんでもこなしてしまう。
体調が悪い時くらい頼って欲しいと思うのは、迷惑なんだろうか。


「私は愛ちゃんの妻だよ。何もできないかもしれないけど、もっと甘えて欲しいな。」

「繭は・・・全然何もわかってない。そういうところだよ、繭はほんと鈍感だから、俺のこと全部わからせてやりたいって乱暴な気持ちになる。」

「愛ちゃん、」

「俺が繭と同じ空間にいる時、どんな気持ちでいるのか・・・無理矢理押さえつけて身体でわからせてやりたいってね。」

一度振り払った私の手を握る、彼の手が熱い。


以前、彼に言われたことを、思い出す。
私が思っているよりずっと、彼は男なのだと。

「俺は繭と二人きりでいると、ムラムラしてたまんない気持ちになるんだよ。わかんない?」

高熱で寝込んでいるのに、そんな時でさえ私に欲情するという夫の精力に、思わず惚れ惚れしてしまう。


「熱があるのに馬鹿みたいじゃんか。」

女性と間違えてしまいそうなほど美しい顔の下で、荒々しく欲望をたぎらせている彼。
身体の相性が良くて、彼とのセックスは何度だって上り詰めることができた。
思い出して、身体が一気に熱くなる。

「風邪治ったら、シよ。愛ちゃん。」

愛に負けないくらい、私の顔は真っ赤に染まっているだろう。


「俺がどれくらい繭のこと好きか、わかった?治ったら一晩中抱くから、覚悟してよね。」

二人きりで過ごす時、彼は普段よりさらに大人びて見える。
大人の男性の熱い視線で見つめられ、私は愛に抱きしめて欲しくてたまらなくなった。


赤い顔で手を握り合っていると、ノック音がして律が入室してくる。

「ビタミンも摂った方がいいと思って、デザート持ってきたぞ。」

律が、りんごを切って持ってきてくれた。
慌てて、握り合っていた手を離す。

「邪魔したか?ごめんな。」

苦笑しながら私の隣に座った律は、サイドテーブルに食器を置く。


「律、ありがと。繭のこと連れてってくれる?ここに二人でいたら、俺、襲っちゃいそうだから。」

律は一瞬目を丸くしたけれど、すぐに優しく微笑んでうなずいた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...