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『愛情表現』
しおりを挟む「桜雅君・・・大丈夫?」
朝から両手にダンベルを持って運動している桜雅の姿に、居合わせた私と雫は顔を見合わせた。
「大丈夫だって。昨日からすげー調子良いから、今のうちに鍛えようと思って。」
身体が鈍ってしょうがねえ、とダンベルを持ち上げている彼は、どう見ても妊娠しているようには見えない。小さなダンベルとはいえ、それなりの重さがあるので心配になる。
妊娠前は筋トレや走り込みをルーティンとしていた彼が、つわりで運動不足だとぼやいていたのを思い出した。
「慶斗さんに聞いてみたら、お腹に負担がかかる運動じゃなきゃ良いみたいなんだけど・・・」
雫は小声で私にそう告げながらも、心配そうに桜雅を見守っている。
リビングに入ってきた耀亮が、ふと桜雅を見てギョッとしたように声をあげた。
「桜雅、お前そんな重たいもの持つんじゃねぇよ・・・!」
「あ?うるせぇな。お前には関係ねぇだろうが。黙ってろ!」
口を開いた瞬間から喧嘩腰な二人に、思わず苦笑する。
(なんか久々に見るなぁ、この二人の言い合い・・・・♡)
彼ら二人の荒々しい会話を見るのは、久しぶりだ。
妙に微笑ましい気分になっている自分に気付く。
「関係あんだろ。お前の腹ん中にいるガキは、俺の家族でもあるんだぞ。」
耀亮の言葉に、桜雅が大きく目を見開いて、彼の顔を見た。
ダンベルを持つ手の動きは、ピタリと止まっている。
彼の言葉に、私は感動してしまい瞬間的に涙腺が緩むのを感じた。
(喧嘩ばっかりしていた二人が・・・あぁ・・なんて尊いの・・・♡)
「キ・・キモイこと言ってんじゃねぇよ。筋肉馬鹿・・!」
心なしか桜雅の顔が、赤くなっている気がする。
犬猿の仲だった夫二人が、少しずつお互いの距離を縮め、成長しているのを見て私は嬉しくなった。
「んだと、テメェ。つわりはどうした。」
「治ってるから動いてんだろうが。見てわかんねぇか?」
二人には二人の、愛情表現があるのだろう。
口は悪いけれど、彼らはお互い認め合っているのだと、今の私にはよくわかる。
私は最近、雫と大和の関係について心配していた。
大和が引っ越してきてから、雫の様子がおかしい。
私は大和に対しての苦手意識が抜けず、困り果てていた。
第一印象が最悪だったことに加えて、彼と顔を合わせるといちいち意地悪なセリフを投げられる。
それが彼の本心ではないと頭ではわかっていても、良好な夫婦関係を築くには時間がかかりそうだった。
「ねぇ、繭・・・今夜、」
ソファーの隣に座った雫が、指を絡めて私を見る。
意味深な彼の視線に、胸がドクンと鳴った。
(雫さんって、本当に切ない顔がめちゃくちゃ似合うイケメンだなぁ・・・♡)
何ヶ月一緒に暮らしても、夫たちのイケメン過ぎる顔にはなかなか慣れない。
「雫さん・・・?」
「ううん、何でもない。忘れて。」
言い捨てるように口にすると、彼はリビングから出て行ってしまった。
今夜は、大和との初夜だ。
雫はきっと、何か思うところがあるのだろう。
「繭、今夜・・あいつと、だろ?」
いつの間にかソファーの後ろに、耀亮が立っていて驚く。
私の髪を手で梳かしながら、彼は耳元に唇を寄せた。
「嫌だとか、怖いとかあるなら、ちゃんと断れよ。」
「え・・・?」
「夫だからって、お前が嫌だと感じることは、断っていい。繭は我慢強いし、相手のためにって気持ちが強いから・・・心配でたまらねぇ。」
肩を抱きしめられて、ふわりと耀亮の香りに包まれた。
彼はいつも、きちんと私を見ていてくれる。
見た目のイメージよりもずっと細やかで、繊細な男性なのだ。
彼の愛情表現はとても豊かで、いつも惜しみなく私に愛を与えてくれる。
「うん・・・ありがとう、耀亮君。」
夫の温かさに包まれながら、私は初夜を迎えるもう一人の夫のことを考えていた。
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