37 / 184
『膨らんだお腹』
しおりを挟む新入りの大和の挑発的な態度に、リビングの雰囲気が重苦しい。
妻として何か言わなければと、焦るばかりで空回りしている私が立ち上がると、同時に爽やかな声が響いた。
「大和さん、初めまして。僕、楓といいます。」
桜雅と入れ違いに2階から降りてきた楓が、大和の前に立って手を差し出す。
まるで、デジャヴを見ているようだった。
私が初めてこの家に来た日。
彼がこうやって笑顔で迎えてくれたことを、まざまざと思い出す。
「大和だ。よろしく。・・・お前、妊娠してるのか?」
楓のとびきりの笑顔は、どんな人間の心も開いてしまうらしい。
大和は、ふっくらと膨らんだ楓のお腹に視線を移した。
「そうです。妊娠4ヶ月になりました。触ってみますか?」
「・・・ああ。」
少しの沈黙の後、大和が答えると、楓は彼の手をお腹へと導く。
予想に反して素直な大和の行動を、夫たちは静かに見守っていた。
「嘘だろ・・・」
「嘘みたいですよね。奇跡だって、僕は毎日とても幸せに思ってます!」
楓の幸せそうな笑顔を見て、大和は沈黙した。
「新しい命って、希望そのものだよな。」
「楓さんのお腹触ると、めちゃくちゃ幸せな気持ちになる!」
「生まれてくるのが、楽しみだよね。」
黙り込んでいた夫たちが、口々に話し始める。
にっこりと笑う楓の天使のような笑顔と、膨らんだお腹。
その場にいた全員の心が、温かくなっているのがわかった。
♢♢♢
「桜雅君、大丈夫?」
あたたかい飲み物を持って、桜雅の部屋に行くと先客がいた。
ベッドの中で上半身を起こした状態の彼は、すでにマグカップを握っている。
「繭、考えることは同じだね。」
ベッドサイドに座る雫が、優しく微笑んだ。
彼はいつも桜雅の体調を、気にかけてくれている。
「あいつ、楓の腹に触ったんだって?」
桜雅は、雫から楓と大和のやりとりを聞いたらしい。
「そうなの。リビングでまだみんなと話してるよ。」
「あいつはすげぇよな。誰の心でも開いちまう。」
楓に笑顔を向けられて、邪険に扱える人間はいないだろう。
「大和はちょっと気難しいところがあるから、楓君が和ませてくれて安心したよ。」
根は悪い奴じゃないんだけど、と雫が苦笑した。
「雫さんがあからさまにカチンと来たの見て、ちょっとウケた。」
「えぇ?ちょっと、桜雅君・・・」
拗ねたように桜雅を見る雫が可愛くて、思わずつられて笑ってしまった。
「繭まで、笑うかなぁ。」
「雫さんが感情剥き出しにするのって珍しいし、相当仲が良いんだなぁって思いました。」
「耀亮の奴、喧嘩っ早いからちゃんと見ててやんねぇと。」
耀亮と大和のやりとりも、雫から聞いたらしい。
桜雅が私の目をじっと見つめる。
この二人は仲が良いのか悪いのかと不思議に思っていたけれど、お互いのことを気にかけて思い合っているのが、今日はっきりとわかった。
(仲が良いんだよね、結局。ほっこりするなぁ・・・♡)
大和が引っ越してきたことで、家族の絆がまた深まりそうだ。
♢♢♢
「繭、今夜一緒に寝てもいいかな?」
桜雅の部屋から出て、マグカップを手にキッチンへ向かう。
雫がぎゅっと手を握ってきたので、私は驚いて逆側の手で持っているカップを落としそうになった。
「え・・?」
当て日じゃない日に、雫からアプローチなんて珍しい。
「繭、ごめん。キスしたい。」
階段の手前、雫が私の顔を覗き込んだと思ったら、唇が重なっていた。
数秒後、ゆっくりと離れていく彼が、あまりに美しくて見惚れてしまう。
スローモーションみたいだ。
(まつ毛、長・・っ!髪サラサラ・・・!雫さん、なんだか色っぽい・・・・)
白い肌、頬がほんのりと色づいている。
雫の瞳は熱っぽく、切ない色を浮かべて、私を捕らえた。
まるでファーストキスみたいにドキドキしながら、彼の手を握り返す。
余裕がない、彼の表情。
彼の身体の熱が伝わってきて、顔が火照る。
全身の血が急に勢いよく流れ出し、ドクドクと心臓がうるさい。
もう一度、彼の唇が重なった。
彼の吐息がハァハァと、荒んでいる。
時折、喘ぎ声のように唇から漏れる甘い声を聞きながら、舌を絡め合う。
「俺・・今夜は、我慢出来そうにない。繭が、欲しくてたまらないんだ・・・」
「雫さ・・ん・・・」
彼のこんな甘ったるい声、初めて聞いた。
背中がゾクゾクと、震える。
「めちゃくちゃに、抱いても良いかな・・?」
(いつもの穏やかな雫さんとは・・・別人みたい・・・・っ)
苦しそうな吐息が、彼の興奮を伝える。
私の耳元に唇を押し当てて、彼は甘く囁いた。
0
お気に入りに追加
786
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる