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先輩と、喫煙室で
しおりを挟む「王寺先生、最近機嫌がいいですね。」
昼休み。外来での診察を終えて書類を整理していると、看護師の久我原 太智が話しかけてきた。
少年っぽい瞳で人懐っこい喋り方をする彼は、この職場のムードメーカーとして可愛がられている。
「そうかな。そんな風に見えるか?」
それもそのはず。最近、俺の性生活は充実している。
久々のエッチに成功してからというもの、弘樹とは週に2、3度のペースで場所を選ばずヤりまくっている。
「お肌なんてツヤツヤしちゃってるし。先生って若いっすよね!」
もしかして、彼も俺と寝たいのか?なんて思い込んでしまいそうになる。
それくらい最近の俺は調子が良かった。
仕事にも身が入る。性的欲求不満が解消されただけで頭はいつも以上にクリアだし、何にでも集中できるようになった。
残って仕事をしても疲れない。性生活の充実は仕事のクオリティーにここまで関係しているとは。
♢♢♢
残業して執筆作業をしていたらすっかり遅くなってしまった。
喫煙室の前を通りかかると、見知った顔が目に入る。
「羽柴先輩、またタバコそんなに吸って。」
「うるせぇなぁ。どこの誰かと思ったら、王寺かよ。」
羽柴 圭。
この病院の整形外科医だ。俺の医学部時代の先輩で、彼はいつも気だるそうな雰囲気を纏っている。スラリと背が高い。短髪で男っぽい口調だけれど、首や手足の作りが細く妙な色気がある。彼の細く繊細なうなじを見て、何度興奮を覚えたかわからない。
(気だるそうな仕草とか視線が・・・エロイんだよな。)
久々に会った先輩をジロジロ見つめる。
だるそうに片手で首を触る仕草がセクシーで、俺の目は彼に釘付けになった。
イケメンで高身長。
看護師たちからモテるらしいが、浮いた話は聞かない。彼はいつも面倒くさそうだ。
喫煙室でタバコを吸っている医者はほとんどいない。
彼はヘビースモーカーで、学生時代からずっと長年吸っている愛煙家だった。
医者になってからますます本数が増えている気がする。
「お久しぶりです。タバコやめたらいいのに。」
「いいんだよ。整形外科医なんだから。内臓診てる医者じゃねぇし。」
彼は細く長い指で器用にタバコを挟んで、思い切り肺に吸い込んだ。
「辞めないにしても減らしたらどうですか。」
「お前だって昔、吸ってただろうが。」
「先輩が吸ってみろって言うから一回吸っただけです。あの時の一回きりだし。」
先輩は当時医学部の学生寮に住んでいて、あの頃俺はよく先輩の部屋に遊びに行っていた。
酔った先輩に吸ってみろと迫られて、一度だけ吸った。
(あの夜、キスしたことを、先輩は覚えているだろうか・・・?)
酔っていたし、翌日先輩はいつも通りだったから、忘れたんだろうと思っていたけれど。
吸ったタバコの味よりも、先輩とキスした時のタバコの香りと味の方がよほどはっきりと俺の心に残っている。
(ヤバイ、思い出しただけで勃ちそうだ・・・どんだけ精力あるんだよ、俺は・・・)
「なぁ、あの夜、キスしたの覚えてるか?」
タバコの煙を吐き出しながら、先輩が言う。
「え!!・・・先輩、覚えてたんですか。」
「覚えてるに決まってるだろ。忘れられると思うか・・・?」
急に彼の目が真剣になった気がして、俺は直視できず目を逸らした。
「嫌だなぁ先輩。そんな揶揄い方、悪趣味ですよ。」
「からかってねぇよ。俺はあの時本気だった。」
「え・・・?」
「って言ったら、どうする?」
俺を試しているのだろうか。彼の目から本心は見えてこない。
「なんだ、やっぱり俺をからかってるんですね。辞めてくださいよ、俺そういう冗談通じないんで。」
(こっちはあの夜のキスを思い出しただけで勃ってんだぞ・・?辞めてくれよ・・・)
欲求不満は解消されたはずなのに、俺の下半身はすぐに反応してしまう。猿じゃあるまいし・・・と内心苦笑した。
「冗談なんかじゃねぇよ。・・・俺は本気だ。」
「先輩・・?」
彼はタバコの煙をふぅっと全て吐き出すと、片手にタバコを燻らせたまま、俺の唇にキスをした。
「俺、このすぐ近くに住んでるんだけど・・・これから部屋に来るか?」
先輩がグイと俺に迫ってくる。彼は俺より背が高い。
喫煙室の隅に追いやられる。
先輩は俺の後ろの壁に片腕を上げた。
(これがあの・・・壁ドン!ってやつか・・・・!?!?)
「せ・・先輩・・・?」
俺は混乱していた。先輩の気だるい雰囲気はただでさえ普段からエロいのに、至近距離にいると彼の強烈なフェロモンに酔ってしまいそうになる。
「二人きりで、あの夜の続きしようぜ。」
耳元に口を近づけて囁くと、彼は俺の耳たぶを甘噛みした。
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