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music.6 拾われた未成年 (SIDE 三幸)
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陸と暮らすようになってから、三幸は一人じゃない生活に慣れつつあった。
そんな時いつも思い出すのは、孤独だった頃の記憶。
生まれた時からいつも孤独だった。
両親に捨てられた子どもだったから。
いらないならどうして産むんだ。
そんな風に、両親を憎んで幼少時代を過ごした。
祖母の存在が唯一の救いだった。俺がこの世界で知った唯一の愛情は、親ではなく祖母からもらった。
母さんの母親であるその人物は、俺の育ての親としていつもそばにいてくれた。
父も母も、音楽一筋の人間だった。
父は有名なピアニスト。母は有名なバイオリニスト。
二人とも多忙で、世界中を飛び回っていたから、家族で一緒に過ごしたという記憶は一切ない。
生まれてすぐに祖母に預けられた俺は、自分をほったらかしにしている両親への恨みから、卑屈で歪んだ性格になっていった。
学費と生活費だけはあまりあるほど送られてきていたから、生活に困ったことはない。
祖母が亡くなるまでは、彼女の愛を受けて育ったから、幼少期は幸せだったと言える。
祖母が居なくなった後の世界は、俺から生きる意味も気力も全てを奪っていった。
祖母と暮らしていた頃。
古い日本家屋には相応しくない大きなグランドピアノだけが、俺の心の拠り所だった。
ピアノを弾くと祖母が喜ぶから、俺は毎日ピアノを弾いた。
祖母からもらった愛情に対して、俺が出来る唯一のお返し。
「三幸のピアノは、三幸そのものだね。」
祖母がよく言っていた。
その当時は意味がわからなかったけれど、今になって思えばよくわかる。
ピアノは俺の人生そのものだ。
それ以外は、何もない。
祖母が亡くなってからは、一人孤独な生活で、俺はどんどん荒れていった。
元々歪んでいた俺の性格に歯止めをかけていた祖母という存在。
祖母がいたから、俺は普通の人間でいられたのだと、彼女を亡くしてから思い知った。
学校へも行くのもやめて、荒れた生活を送っていた俺を拾ってくれたのは今の事務所の社長、剛さんだった。
彼は何の価値もないただの廃人だった俺を拾い上げて、育ててくれた。
両親からの仕送りを俺の将来のためにと貯めておいてくれた祖母の思いを裏切って、俺は酒に溺れ、廃人のような生活を送っていた。
「君、酒が好きなの?」
「あ?お前誰だよ。」
「俺?俺はただの通りすがりのおっさんだよ。」
「なんだそれ。別に酒なんて好きじゃねぇよ。」
朝方までバーで飲んだくれていた俺を、未成年だと見抜いたのは彼だけだった。
店員も他の客も、この世界中の誰も俺には興味を示さなかった。
俺のことが見えていないみたいに、誰も俺には関わらなかった。
「君、未成年でしょ。」
剛さんは、ウイスキーグラスを傾けながら、笑顔で言った。
「あ?だったらなんだよ。お前、警察か?」
当時の俺は、全てにイライラしていたし、全てが受け入れられず、孤独だった。
攻撃をすることでしか、世界と繋がる術を持っていなかった。
「違うよ、」
「未成年が好きな変態とか?」
彼は一瞬目を丸くして、大きな声で笑い始めた。
「あはは、君、面白いね。」
「あんたは、つまんねぇ。話しかけてくんなよ。」
「君に興味を持っちゃったから、それは出来ないな。」
俺の攻撃を真正面から受けて、俺を排除しようとしない大人は初めてだった。
彼は言い聞かせるでも、世間の枠にはめようとするでもなく、ただありのままの俺を見てくれた。
事務所で働かないかと言われて、嫌だと反発したはずなのに、俺はいつの間にか彼の事務所の一員にされていた。
彼の押しの強さに流されて、俺はまたピアノと運命的な再会を果たすことになる。
彼の事務所のホールには、立派なグランドピアノがあった。
それを目にした途端、祖母の笑顔が思い浮かんで涙が出た。
次から次へと溢れてきて、俺はピアノに触れずにはいられなかった。
祖母の好きだった曲。
弾くといつも彼女は笑顔になった。幸せそうに優しい笑顔を浮かべて、俺のピアノを聴いていた。
ピアノは俺の人生そのものだ。
祖母の笑顔を想いながら、俺は夢中で鍵盤を叩いていた。
「君、何者?」
いつの間にか剛さんがホールに立って、俺の演奏を聴いていた。
俺はピアノの音に涙が溢れて止まらなくて、何も答えられず何曲も何曲も、思い出を辿るようにピアノを弾いた。
全てのことはピアノからもらった。
大切な人を笑顔にする喜びも、生きるエネルギーも、何もかも。
「三幸君、何考えてるの?」
打ち合わせ中だということをすっかり忘れて昔の記憶を辿る旅に出ていた俺を、剛さんが笑顔で見つめている。
「いや、昔のことを少し思い出してた。」
「なあに?昔の恋人の話?」
「そんなんじゃ・・。ってか、何ニヤニヤして・・」
「だってすごく幸せそうな顔してたから、三幸君。」
幸せそうな顔。
それをくれたのは、あんただよ剛さん。
俺の人生の恩人。
祖母と、剛さん。
この人に対しては一生言いなりになる覚悟で、俺は今もここにいる。
どんなに売れっ子になっても、どんなにでかいオファーが来ても、この事務所を出ようとは一度も思わなかった。
俺が唯一帰れる居場所。
「陸はどう?レッスン進んでる?」
「あの馬鹿、全然言うこと聞かねえし、生意気だし、すげーストレス。」
「でも良いもの持ってるよねぇ。彼。」
磨けば光る原石。
この人は原石を見つけるのが天才的に上手い。
「ムカつくけど、それは正しい。あいつは化ける。」
無理矢理俺の生活に入り込んでくる陸に、俺はペースを乱されていた。
音楽のことだけじゃない。
俺の生活に今までなかった同居人という新しいカテゴリー。
「なんだか楽しそうだね、三幸君。」
剛さんの言葉に、俺は返事をしなかった。
そんな時いつも思い出すのは、孤独だった頃の記憶。
生まれた時からいつも孤独だった。
両親に捨てられた子どもだったから。
いらないならどうして産むんだ。
そんな風に、両親を憎んで幼少時代を過ごした。
祖母の存在が唯一の救いだった。俺がこの世界で知った唯一の愛情は、親ではなく祖母からもらった。
母さんの母親であるその人物は、俺の育ての親としていつもそばにいてくれた。
父も母も、音楽一筋の人間だった。
父は有名なピアニスト。母は有名なバイオリニスト。
二人とも多忙で、世界中を飛び回っていたから、家族で一緒に過ごしたという記憶は一切ない。
生まれてすぐに祖母に預けられた俺は、自分をほったらかしにしている両親への恨みから、卑屈で歪んだ性格になっていった。
学費と生活費だけはあまりあるほど送られてきていたから、生活に困ったことはない。
祖母が亡くなるまでは、彼女の愛を受けて育ったから、幼少期は幸せだったと言える。
祖母が居なくなった後の世界は、俺から生きる意味も気力も全てを奪っていった。
祖母と暮らしていた頃。
古い日本家屋には相応しくない大きなグランドピアノだけが、俺の心の拠り所だった。
ピアノを弾くと祖母が喜ぶから、俺は毎日ピアノを弾いた。
祖母からもらった愛情に対して、俺が出来る唯一のお返し。
「三幸のピアノは、三幸そのものだね。」
祖母がよく言っていた。
その当時は意味がわからなかったけれど、今になって思えばよくわかる。
ピアノは俺の人生そのものだ。
それ以外は、何もない。
祖母が亡くなってからは、一人孤独な生活で、俺はどんどん荒れていった。
元々歪んでいた俺の性格に歯止めをかけていた祖母という存在。
祖母がいたから、俺は普通の人間でいられたのだと、彼女を亡くしてから思い知った。
学校へも行くのもやめて、荒れた生活を送っていた俺を拾ってくれたのは今の事務所の社長、剛さんだった。
彼は何の価値もないただの廃人だった俺を拾い上げて、育ててくれた。
両親からの仕送りを俺の将来のためにと貯めておいてくれた祖母の思いを裏切って、俺は酒に溺れ、廃人のような生活を送っていた。
「君、酒が好きなの?」
「あ?お前誰だよ。」
「俺?俺はただの通りすがりのおっさんだよ。」
「なんだそれ。別に酒なんて好きじゃねぇよ。」
朝方までバーで飲んだくれていた俺を、未成年だと見抜いたのは彼だけだった。
店員も他の客も、この世界中の誰も俺には興味を示さなかった。
俺のことが見えていないみたいに、誰も俺には関わらなかった。
「君、未成年でしょ。」
剛さんは、ウイスキーグラスを傾けながら、笑顔で言った。
「あ?だったらなんだよ。お前、警察か?」
当時の俺は、全てにイライラしていたし、全てが受け入れられず、孤独だった。
攻撃をすることでしか、世界と繋がる術を持っていなかった。
「違うよ、」
「未成年が好きな変態とか?」
彼は一瞬目を丸くして、大きな声で笑い始めた。
「あはは、君、面白いね。」
「あんたは、つまんねぇ。話しかけてくんなよ。」
「君に興味を持っちゃったから、それは出来ないな。」
俺の攻撃を真正面から受けて、俺を排除しようとしない大人は初めてだった。
彼は言い聞かせるでも、世間の枠にはめようとするでもなく、ただありのままの俺を見てくれた。
事務所で働かないかと言われて、嫌だと反発したはずなのに、俺はいつの間にか彼の事務所の一員にされていた。
彼の押しの強さに流されて、俺はまたピアノと運命的な再会を果たすことになる。
彼の事務所のホールには、立派なグランドピアノがあった。
それを目にした途端、祖母の笑顔が思い浮かんで涙が出た。
次から次へと溢れてきて、俺はピアノに触れずにはいられなかった。
祖母の好きだった曲。
弾くといつも彼女は笑顔になった。幸せそうに優しい笑顔を浮かべて、俺のピアノを聴いていた。
ピアノは俺の人生そのものだ。
祖母の笑顔を想いながら、俺は夢中で鍵盤を叩いていた。
「君、何者?」
いつの間にか剛さんがホールに立って、俺の演奏を聴いていた。
俺はピアノの音に涙が溢れて止まらなくて、何も答えられず何曲も何曲も、思い出を辿るようにピアノを弾いた。
全てのことはピアノからもらった。
大切な人を笑顔にする喜びも、生きるエネルギーも、何もかも。
「三幸君、何考えてるの?」
打ち合わせ中だということをすっかり忘れて昔の記憶を辿る旅に出ていた俺を、剛さんが笑顔で見つめている。
「いや、昔のことを少し思い出してた。」
「なあに?昔の恋人の話?」
「そんなんじゃ・・。ってか、何ニヤニヤして・・」
「だってすごく幸せそうな顔してたから、三幸君。」
幸せそうな顔。
それをくれたのは、あんただよ剛さん。
俺の人生の恩人。
祖母と、剛さん。
この人に対しては一生言いなりになる覚悟で、俺は今もここにいる。
どんなに売れっ子になっても、どんなにでかいオファーが来ても、この事務所を出ようとは一度も思わなかった。
俺が唯一帰れる居場所。
「陸はどう?レッスン進んでる?」
「あの馬鹿、全然言うこと聞かねえし、生意気だし、すげーストレス。」
「でも良いもの持ってるよねぇ。彼。」
磨けば光る原石。
この人は原石を見つけるのが天才的に上手い。
「ムカつくけど、それは正しい。あいつは化ける。」
無理矢理俺の生活に入り込んでくる陸に、俺はペースを乱されていた。
音楽のことだけじゃない。
俺の生活に今までなかった同居人という新しいカテゴリー。
「なんだか楽しそうだね、三幸君。」
剛さんの言葉に、俺は返事をしなかった。
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