上 下
7 / 58

七話 自慢の妻

しおりを挟む
「自慢の妻の話をしても良いかな?」

キースがアメリアに寂しそうな笑顔を浮かべながら問う。

「ええ、お願いいたします。あ、あの……マリアさんは……。」

アメリアがマリアに気を遣っていると、

「ああ、マリアはこの話を知っている。この娘は幼いながらも自分の母親の最後を理解する頭脳があるんだ、そして彼女から受け継いだ力もな……その分不憫な……まぁ、その話はおいておくか……マリア、母の話をするからね。」

キースは優しい眼差しでマリアを見ると、マリアは、強く応える。

「はい、お父様。」

「よし、……アメリアは私とローラと同じ時期に生徒会にいたね。」

「はい。もうあの頃にはご婚約しておられたと伺っております。」

「そうだ。そして、卒業してすぐに私達は結婚、その翌年にはこのマリアが産まれる。私達夫婦は、それは幸せな時を過ごしたんだ……。それが今から二年前、マリアが三歳の誕生日に、国中の人々が突然、四肢の先端から石と化し、倒れる奇病が流行った……。」

「そうですね。それは、それは、恐ろしい光景だったと伝え聞いています。」

キースは一つ頷き、

「そうか……。そこで、治癒魔法に秀でたローラが駆り出されたんだが、伝染病の出た街は混乱していてな………。そんなときに現れたのが聖女アバ。彼女は、平民ながらも、そのたぐいまれなる魔力と、センスで、人々を次々と癒していくのだが、どうしても補助するものが必要らしくてな、そこに手を上げたのがローラだった。」

アメリアが驚きの表情を浮かべ、

「ローラ様が………なかなか出来ないことです。」

キースは遠くを見る目で話を続ける。

「ああ、貴族の、しかも公爵婦人の地位のローラが平民の補助……しかし、聖女の力を十分に発揮して、人々を治すにはそれしかなかったんだ。そんなローラと聖女アバの力により伝染病は収まりつつあったのだが………。」

キースが、怒りの表情になり、言葉につまると、アメリアは、

「な、何かあったのですね?」

アメリアの答えに、アメリアは何も知らないのだと悟るキースは、

「その口ぶりだと……、アメリアはなにも知らないのか、君も何かあったんだな……。」

アメリアは、頭をさげて、

「すみません、その伝染病の頃にはもう、屋敷から外に出ていなかったもので……。」

キースはアメリアの服装と発言からなにかを察して、

「よし、では包み隠さず教えてやろう。ギネリン王が患者の隔離の目的で、ロヌポルル地区を封鎖して、全ての交通を遮断したのだ……。」

キースは両手から血が滴るほど、強く握りしめ、怒りにうち震えている。
アメリアは、キースの言葉に、

「な、何故そんなことを……。」

滴り落ちる血をそのままにキースは話を進める。

「聖女アバの治癒魔法には多くの魔力と、それを支える為に、魔力回復の薬を大量に消費していたからな………ギネリン王がそれを惜しんでの事だった。交通を封鎖と聞けば、まだ開かれたイメージだろうが、実際は、魔法によって巨大な壁を造り、中の民衆を全滅させると言う非人道的なものだった………。」

キースの顔は、怒りから哀しみに変わる。

「そんな………それでもローラ様なら…」

アメリアは、ローラの魔法ならその場から離れることも出来たと思い至るが、

「ああ、彼女なら逃げる事は出来ただろうが、それをしなかったんだ。大勢の民衆を助けるために聖女アバは自らの命と引き換えに大魔法を発動させる…その補助をかって出たんだ………。」

キースの頬につたう二つの筋をみて、アメリアは、ローラのその後を知る。

「そうですか……。ご立派な最後を………。」

ふとマリアの方をみるアメリア。

「そうよ!私のお母様は勇敢な人だったの……だから私もそんなお母様に負けない令嬢になるの……。」

強く正義感に満ちたその言葉に、その場にいた全ての大人が涙する。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

処理中です...