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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク

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       第十話


 ミニバスは発着場を通り過ぎて山道を登り始め、すぐにカーブしたと思ったら一軒の小さなホテルの前に停まった。

 ここはあのサッカー大好き若者がコックとして就職が決まったホテルとのことで、彼はバスを降りると僕に軽く手を振ってからホテルに入って行った。

 ミニバスの運転手はバスから降りて戸惑っている僕達に対し、「泊まる所は決っているのか?このホテルはどうだ?」と問いかけてきた。

 僕はあの人が待ってくれているはずのバス発着場に戻ろうと思った。
 すると日本人男性四人と女性ひとりの五人グループの中のメガネをかけた青年が、「貴方はどうされるのですか?」と僕に聞いてきた。

 「僕は友人が街の中心部のゲストハウスにいるから、そこに泊まる予定なんだ」

 僕はそう返事してから、同じバスで来た旅人たちの動向をしばらく見守っていた。

 するとさっきから僕達の周りをウロウロとしている年齢不詳の小さな女性が、名刺を差し出しながら何やらベトナム語で話しかけてきた。

 「僕はPhuong Nam GHに行きたいんだけど、ここから遠いの?」と片言の英語で聞いてみた。
 すると彼女が差し出した名刺を見ると、何とそこには僕が目的とするGHの名前が書かれていたのだ。

 「君のゲストハウスに昨日から日本人の女性二人が泊まっていない?」と聞いてみた。

 しかし彼女は僕のいうことを分かっていない様子だったが、ともかくバスを彼女のゲストハウスに向かわせてくれないかと運転手にいって再び乗り込み、5人の日本人若者達も僕に同行することとなった。

 Phuong Nam GHはサ・パの中心からサ・パ市場を通って西方向に二百メートル程のところに位置しており、ちょっとはずれにある静かなゲストハウスらしい。

 到着後、五人の日本人若者達は部屋を見せてもらうために中に入っていった。
 僕はあの人が迎えに来てくれていることなどすっかり忘れてしまっていたが、昨日の電話で、予定の時刻に来なかったらゲストハウスに帰っているとのあの人の言葉を思い出し、バックパックを下ろして玄関で待つことにした。

 ゲストハウスの前にたたずんでいると、黒モン族の少女達が僕を囲んで、手縫いの敷物やシルバーのブレスレットなどを、「Buy for me!」といって勧めてくる。

 僕は一人の少女にシルバーのブレスレットはいくらか聞くと、一万ドン(七十七円程度)というので、すぐに一つだけ買ってしまった。

 するとそれを見ていたほかの黒モン族の少女達が、「買って、買って!」とうるさくいい寄ってきて離れない。
 確かに彼女たちは可愛くて憎めないのだが、ホトホト困惑してしまった。

 そんな事をしながら何気なく市場の方を見ると、あの人が遠くの方から歩いてくるのが見えた。

 僕は彼女とは一度きりしか会ったことがない。
 今日はオレンジに模様の入ったベトナム風巻きスカートに白のシャツ、首にはブルーの模様入りスカーフをして、さらに頭にはベトナム人が被っている三角帽子姿だった。

 予測のつかない格好だったが、ひと目で彼女と確信した。
 探偵は仕事柄、一度会った人のことは忘れないという職業病のようなものを持っている。

 きっと東京の渋谷駅前辺りの雑踏でも、彼女がどんな服装でどんな格好をしていても、僕は大勢の人の中から確実に彼女を見つけ出す自信があるのだ。

 僕は黒モン族の少女の手を解きながらゆっくりと彼女の方に歩いて行って、「やあ!Nice to meet you」と言った。
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