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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 61

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    第二章 2002年 春

     61 三人の晩餐

 川沿いの通りを西方向に二百メートル程歩いてみたが、昨年土の堤防だった所はコンクリートの岸壁が続いており、情緒ある場所は全く見当たらなかった。

 もっともっと西に歩けば岸壁が途切れて、昨年と変らない土手になっているのかもしれないが、その時パラパラと雨が降ってきたので、「もうこの辺りのレストランに入りましょうか」ということになった。

 ちょうど、昨年も一度入ったことのある道路沿いの小さなレストランが見えて、僕達三人は入って行った。

 この店は昨年ビエンチャンに到着した日の昼に、N君が店の主人にガイドブックに載っているラオス料理の写真を指で示して、「この料理できますか?」といくつか訊いても、全く要領を得なかったレストランだった。

 席についてメニューをあらためて見てみると、載っている料理の種類は結構豊富で、客の入りもほぼ満席に近いから、ひょっとして地元ではそれなりに評判の店なのかも知れない。

 僕達はメニューをじっくり見て、春巻きやフライドライス、野菜と肉の炒め物、バーベキュー、カオニャオなどを注文して、もちろんビアラオを二本頼んで月君との出会いの乾杯をした。

 月君もR子さんもあまりビールを飲まなかったが、それぞれの日本での仕事や日常などを話して楽しい夜となった。

 月君はやはりサラリーマンなので、このような旅は年に二、三回と嘆き、R子さんも同様だが、やっぱり皆仕事を持っているとこれが精一杯の休暇なのだと再認識をした。

 彼は髪の毛を茶色というか、ほぼ金髪に染めており、「月君の会社は超一流企業でしょ。そんな髪の毛で大丈夫なの?」と僕は不思議に思って訊いてみた。

「僕の仕事はカメラのデザインなので、営業などと違って外部の人との接触もないですから、上司が大目に見てくれているのですよ。それにワールドカップも近いということもありますから」

 僕は何故ワールドカップが近いと月君が金髪にしなければならないかを、社会的背景や世界的規模で目まぐるしく考えたが、どうも納得のゆく推測は浮かんでこなかった。

「サッカー大好きなんですよ。ワールドカップ開催中はサポーター気分になりたいのです」

【そういうことなのか】

 要するに、憧れの俳優やスポーツ選手などの髪型や服装を真似て、それに少しでも近づいたと満足する、あの感覚なのかな。
 いや違うか、サポーター気分だから、自分ができる範囲でワールドカップにエールを送っているということなのかも知れない。

「ワールドカップが終われば色を落としますよ。あまりこんなことばかりしていると、髪が傷むのですけどね。ちょっと最近少なくなってきたし」

 月君の年令は忘れてしまったが、おそらく三十才前後だったか、或いは三十過ぎだったと思うが、そういえば少し前面が薄いと言えないこともなかった。ここは頭髪の苦労人として(笑)、やっぱりアドバイスをしておこうと思った。

「月君、僕はね、この三年ほど発毛剤を使っているんだ。アメリカから輸入しているんだけど、これがよく効くんだよ。もし使っていなかったら、僕の頭髪は今頃綺麗サッパリ無くなっているだろうね」

「えっ、そんなのあるんですか?リ○ップとかいうのとは違うんですね?」

 彼は意表をついた僕の言葉に少し驚きを表しながらも訊いてきた。

「そのリ○ップの五倍の発毛成分が入っているんだ。アメリカでは証明されている」

 僕の話に月君は身を乗り出しそうにしながら興味深く聞いていたが、横ではR子さんが、ラオスに来て楽しい晩餐に、一体何の話題で盛り上がっているのだ、という風に呆れ顔だったので、その話は切り上げて再びビアラオを飲んで旅話に変えた。

 料理はすごく美味しかったが、三人ともお腹が一杯になり、カオニャオというラオス人の主食であるもち米を蒸して小さな篭に入ったものは、半分ほど残してしまった。

 三人がそれぞれお互いのメールアドレスと住所を交換し合った。
 そしてお勘定は驚くほど安かった。

 それから僕たちは、いつの間にか強く降っている雨の舗道を濡れながら歩いた。
 僕達の宿の前で月君にお別れを言い、ビエンチャンの夜は終わった。

 明日は早朝からバンビエンにバスで向う。

 R子さんにお休みを言って部屋に戻り、楽しい旅に感謝をして眠った。

 このようにしてビエンチャンの夜は過ぎて行った。

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