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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉑

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     第一章 2001年 春


       二十一
 
 朝七時にビエンチャンを出発したバスは、途中一度だけトイレ休憩をしただけで、午前十一時ごろにはバンビエンに到着した。

 バンビエンはVang Viengと書き、バンヴィエンと読む人やワンビエンと呼んでいる現地人もいたりするが、どちらでもよいみたいである。

 首都・ビエンチャンから北に約百八十km、国道十三号線をルアンパバーン方面にドンドン上がっていく途中の山岳道路の入口辺りに位置し、ナムソン川から臨む岩山は、中国の桂林を彷彿させるような景観らしい。

 町は端から端までが大げさに言えば五百メートルから六百メートルほどで、村と呼んだ方が適している気がするほど小さい。

 内戦が激しかった二十年以上前にはアメリカ軍の基地があり、当時使用していた飛行場跡が町の東側にだだっ広く残っていて、そこがバス発着場にもなっている。

◆バス発着場、ベトナム戦争や内戦時は米軍の飛行場として利用されていた。



 さてバスを降りるとトゥクトゥクが数台待機しており、何やら早口で声をかけてきた。

 僕達三人と、途中の休憩で声をかけてきた六十三才の男性と、年配の男性とその娘さんという感じのふたり連れとの六人で一台のトゥクトゥクに乗り、町中に入っていくと、一軒のゲストハウスの前に着いた。

 ここで父娘とみられるふたりは他のゲストハウスを探しに行き、残った四人がそのゲストハウスで部屋を見せてもらうことにした。

 ここはタビソックゲストハウスという名称で、ガイドブックには掲載されていないが、ほぼ町の中心に位置していて、少し歩けば銀行もあり、市場や郵便局までも徒歩三分ほどの距離であった。

 ゲストハウスは広い中庭に大きなテーブルが置かれ、向かって右側が家族の住居となっていて、奥にある建物は木造二階建ての各階五部屋計十部屋で、シングルルームはファン、ホットシャワー・トイレ付きで一泊三万Kip(約四百二十円)とのことだった。

◆タビソックゲストハウス



 部屋を見せてもらうとログハウスのような造りで、シーツも清潔で部屋の感じもよく、まだオープンしてそれ程経っていないようだった。

 宿の女将さんは終始ニコニコしていて熱心だし、僕たち全員がここに泊まることに決めた。

 僕は二階の階段を上がったすぐの部屋で、他の三人は一階の部屋になり、とりあえずそれぞれがバックパックを降ろすために部屋に入った。

 二階に上がる階段の途中では、若い日本人女性が銀紙の上で何かを炙って吸引していた。

 きっと大麻のようなものだと思うのだが、僕の顔を見て「こんにちは」と挨拶をしてきた。

「やあどうも」と言うと、「今からバスでビエンチャンに行かなくちゃいけないんですよ。ここに来る前にルアンパバーンのゲストハウスでパスポートを盗まれてしまったんです」と言うのであった。

 彼女はルアンパバーンの宿でバックパックの中にパスポートを入れて出かけて、帰って来ると荷物が開けられていたので確認すると、パスポートだけがなくなっていたと言う。

 詳しい状況は分からないが、一ついえることは、やはりパスポートはどこに行くのにも肌から離してはならないということである。

 僕はミニバックに現金とカメラなどを入れているが、パスポートとクレジットカードと帰りの航空券は、汗でベトベトにならないようにナイロン袋に入れてから、首から吊り下げる布製の小さなポシェットに入れて、常に肌から離さない。

 旅では何が起こるか分からないから、少なくともこれくらいは気をつけておかないといけないと思う。

 ところで彼女は欧米人の男性と部屋をシェアしていて、このあとふたりでチェックアウトをして、バックパックを背負ってバス発着場に一緒に向かって行った。

 書物やネットではこのような逞しい女性の存在はよく書かれているが、実際話をしてみると、やはりどこか目がイッてしまっているし、独特の雰囲気を持っていた。

 まあ人生は人それぞれだし、旅も人それぞれ考え方が異なるのだから、とやかく言うことではない。

 僕だって欧米人の若い女性と部屋をシェアしたり、一緒に旅をしようなんて嬉しい事態にはまる可能性がないこともないのだから。

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